【無料小説】 そして欠片は花弁のように 恋愛小説

【無料恋愛小説】そして欠片は花弁のように⑤ミッキー

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翌日以降も、午前中に作業をしてミニーとの待ち合わせ場所へ向かう、という一連の行動を変わらずに繰り返した。
この数週間、毎日してきた行動。
ただ、最も大事な部分が変わってしまった。

ミニーが待ち合わせ場所に来ない。

やはり怒鳴ってしまった僕に対して相当怒っているらしい。
確かに僕も怒っていた。
でも、もっと冷静に、しっかりと僕の想いを伝えるべきだった。
本気だから、と。
本気で好きだから、心配だから、許せない冗談もある、と。
せめてもっと上手に伝えるべきだった。

いつもいつも、返信が全く来ないにも関わらず毎日送り続けたメールも、状況が状況だけに送るのを辞めた。
謝るならちゃんと目の前で。
メールや電話での謝罪なんて、きっとミニー相手では本気さが伝わらない。

記念日に見せようと思っていたアイディアは徐々に形になりつつある。
それがちょっと切ない。
果たしてミニーに見せる事が出来るのだろうか。
それまでに会う事が出来るだろうか。
僕を許してくれるだろうか。

いつもの待ち合わせ場所でミニーを待ち続けて数日が過ぎた。

ハイジ
お兄さん、暇ですかー?などと言われる人は確実に暇で死にそうな顔をしているに決まっているんだよ!だから突然声をかけても全く文句を言われる筋合いはないのかも。そうなのかも?違うかも
ミッキー
うおっ!何だよいきなり!どうしたんだ、偶然通りかかったのか?
ハイジ
んー?そんな事無いんだよ。今日は日本で最も暇な高校生の取材にやってきたのかも。自由研究のテーマとして発表するんだよ。さぁ早速ですが、何故暇を持て余していますか?
ミッキー
いや、そんな事言われてもな……見りゃ分かるだろうが
ハイジ
見れば分かるのはとても暇そうな顔をしているという点かも!という事は、人が暇になるんじゃなくて、暇が人を選んでやってくるのかもしれないんだよ!生まれ付き暇な顔をしていると一生暇からは抜け出せないのかも。そうなのかも?違うかも
ミッキー
そんなわけないだろ!僕だって今まではずっと楽しく退屈しない日々を……うううっ、とにかくこんな精神的にキツイ取材は辞めてくれ
ハイジ
んー?精神的にキツイというより、摂氏的に暑いのが原因だと思うんだよ。だからミニーは家で寝込んでしまって、ミッキーは何故かこんな所で誰かからナンパされるのを待っているという不貞の暴挙に出ているのかも?そうなのかも。そうに違いないのかも
ミッキー
そんなわけないだろって言ってるだろ!…………って、今、何て言った?
ハイジ
んー?ミッキーはこんな所で暇そうな顔にも関わらず浮気相手を……
ミッキー
そうじゃなくて!ミニーがどうしたって?
ハイジ
んー?浮気がミニーにバレた時を想定して私は先に気絶しておきたいくらいかも。ガクガクブルブル
ミッキー
ちょ、ちょっと!気絶しないでくれ!ミニーが寝込んでるってどういう事なんだ。またいつもの想像で言ってるだけなんだろ?
ハイジ
むむむっ、私がいつもいつも想像で適当な話を創造しているなんて、酷い言われようなんだよ。ちゃんと私は昨日ベッドでグッタリガッカリしているミニーをお見舞いしてきた次第かも。そうなのかも?違うかも
ミッキー
そっか……どうやらホントみたいだな……じゃぁもしかしてミニーは来ないんじゃなくて来れない可能性があったって事か?いや、そういう問題じゃなくて……ま、またな!ハイジ、ありがとう!
ハイジ
ぴゅぴゅぴゅっ!
ミッキー
それって僕がお前から遠ざかる時も発生する効果音なのか?まぁ良いや、またな!

こうしちゃいられない。
考えるよりも先に身体が動いていた。
まさかミニーがホントに体調を崩していたなんて。
来れるとか来れないとか、そういう問題じゃない。
こんな時に傍にいないなんて。
それが問題だ。

もしかしてあの時からずっと寝込んでいるのだろうか?
どうして演技をしたなんてウソをついたりしたんだろう。
体調が悪いなら、悪いって言って欲しかったのに。

ミニーの家に到着し、呼び鈴を押そうとすると庭からミニーの母親が出てきた。

「おや?ミッキー君?おひさー」

「あ、こんにちは!あの、ミニーさんの体調が悪いって聞きまして……」

「うん、って、あれー?知らなかったの?はぁ、ホントあの子、捻くれちゃって……誰に似たんだろう……あ、ごめんごめん、こっちの話。部屋にいるから勝手に入っちゃって。じゃぁねー」

そう言ってまた庭に戻って行ってしまった。
相変わらず母娘全く似ていない。
いや、物事に動じないところとか、根っこの部分では似ているのかもしれない。

ミッキー
お邪魔しまーす……

囁くように言って家の中に入った。
上に行くに従って薄暗くなっていく階段を上り、部屋のドアをノックした。

何も反応が無かったのでゆっくりとドアを開けた。
ミニーはベッドで横になっていた。

しっかりと、目を開けて。
ドアを開けた僕をジッと、表情を変えずに見詰めている。

ミッキー
起きてたのか
ミニー
………………
ミッキー
ハイジに聞いたんだ。ごめん、ホントに体調が悪かったなんて思わなくて……いてもたってもいられなくなって……今の具合はどうだ?
ミニー
最悪ね
ミッキー
そ、そうか。毎日待ってたんだけど来なかったからさ。怒ってるのかと思ったよ
ミニー
ええ、そうね。これ以上ないくらい怒っているわ
ミッキー
……やっぱりそうか。ごめん!
ミニー
……あら、何かしら、突然。何に対して謝っているのかしら
ミッキー
てっきり体調が悪いフリをして僕をからかったのかと思って、そういうのは冗談では済まない問題だと思って、でも怒鳴ったりするべきじゃなかった。もっと冷静にお前の話を聞くべきだったんだ。だからごめん。あんな風に一方的に怒ったりして。ホントに体調が悪い事も気付けなくて
ミニー
………………
ミッキー
とにかく、また明日からも待ってるから。来れないようならまた見舞いにも来る。そ、それは構わないんだよな……?
ミニー
………………
ミッキー
と、とにかくそういう事だから。突然寝てるところを邪魔して悪かった!また明日な

これ以上ないくらい怒っている。
その言葉にすっかり怯んでしまった僕は、更に怒らせたりしないように足早に部屋を後にした。
面と向かってしっかり謝罪する、という目的は果たせたので、後はミニーが許してくれるかどうかだ。

そして次の日。
今日も朝から作業をする。
ここまでとても順調に来ていると言って良いだろう。
いつの間にかもう翌日に迫っている記念日に、ミニーに見せたいプレゼント。

そのプレゼントの前でしゃがみ込み、僕はしばらく考え事をしていた。
ミニーの怒りが収まらなかったら、僕はどうしたら良いんだろう。
ミニーの人間嫌いは常識で考えられるレベルを遥かに超越している。
もし一度嫌われてしまったら、きっとそれっきり。
もう二度と僕と話したいとは思ってくれないだろう。
ミニーにとって、興味のない人間はカボチャやジャガイモみたいなものなんだ。

同じ教室にいても、目も合わさない、挨拶も交わさない、全く他人の二人。
そんな姿を想像しただけで涙が出そうになる。

今日も待ち合わせ場所に来てくれなかったら、またミニーの家へ行こう。
ミニーが「来るな」と言わない限り、何度でも。

気付くと僕の影は小さく小さくなっていて、既に太陽が真南に来ている事がそれだけで分かった。
首筋が焼けるように暑く、顎から滴る汗が下の土を黒く変色させている。
しまった。
既にいつもの待ち合わせ時間に近付いてしまっているかもしれない。
つい物思いに耽りすぎてしまった。

僕は慌てて勢いよく立ち上がり――――

そのまま膝から崩れた。

視界がグルグルと回り、一瞬で吐き気に襲われる。

熱中症――――

と意識の片隅で認識した直後、僕は意識を失った。

続く

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