【無料小説】 だから俺はクリスマスが嫌いなんだ 恋愛小説

だから俺はクリスマスが嫌いなんだ:12月22日その4

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アンナは一言で表現すると、まるで珍獣のような奴だった。
言ってる事もする事も、俺にはよく理解出来ない。
というより、アンナ自身が世の中の色々な事をほとんど理解してない。

まずはとにかくよく食べる。
男女の間とか、人間関係とかの細かい事を気にしない。
細かい事どころか大きな事すら気にしないのだから、当然と言えば当然だ。

例えば生い立ちについてもそうだ。

「なぁ、君って何者なんだ?」

「何者って?っていうかアンナで良いよ」

「じゃ、じゃぁ……アンナ。ほら、大学生とか、フリーターとか、就職浪人とか」

「あはは!そんなに働いてないように見える?」

「いや、今のは言葉の綾というか……俺より若く見えるから」

「へー。そう見える?」

「え?もしかして違うのか?俺は24歳なんだけど」

「うーん」

「………………」

「よく分かんない」

「え?」

「だからー、何歳とかそういうの、よく分かんない」

「分かんない……」

「うん、別に何歳でも良いんじゃない?」

おい、何だよそれ。
ずっと20歳のプロフィールのまま10年以上在籍してる風俗嬢みたいな言い方じゃないか。
行った事は無いぞ。
人づてに聞いた話である。

例えば16歳以上なのか未満なのか、18歳以上なのか未満なのか、20歳以上なのか未満なのか、それで物凄く色々変わっちゃう世の中であり、年齢不詳はマズイ。
特に俺が!
アンナの年齢によっては、ただ一緒の部屋にいるだけの俺が物凄く世間に批判される恐れがあるんだ!

「少なくとも20歳以上なんだよな?」

「まどっちはその方が嬉しい?」

「嬉しいって言うか、助かると言うか、心配がかなり軽減されると言うか」

「じゃぁそれで良いよ」

「………………」

そういう言い方をするのって、明らかに20歳以上じゃない場合じゃないのか?
新年を迎える前に俺は警察に捕まるんじゃないだろうな。
家出人の捜索願が出てて、目撃情報を元に俺の部屋に踏み込まれて……。
ん?捜索願?

「なぁ、ここにいる事はちゃんと家族は知ってるんだよな?」

「家族?」

「そう、家族。両親とか兄弟とか」

「家族……うーん」

「お、おい、まさか無断で……」

「よく分かんないけど、ここにいろって言われたから」

「ふーん」

家族という単語に対しての反応が妙に薄い。
家族に無断で出てきた事が後ろめたかったらもう少し取り乱すだろうし、家族に言われてここへ来たならそうはっきり言えば良いだけである。
でもアンナの反応を見る限り、普段家族なんてものを全く意識せず、全く関係なく生活しているような、物凄く遠くに感じさせる、家族の存在すらにおわせないような雰囲気。
何故そんな事を感じたかというと、何となく俺と似た空気を感じたからである。
もしかして孤児とか、そういうのだろうか。
俺って養子の受け入れとかを知らない間に申請したのか?
それともまさか、知らない間に戸籍を悪用されて偽装結婚をさせられるような事件に巻き込まれてる最中なんじゃないだろうな?
それは流石に考え過ぎか?
アンナ本人の口から【長居しない】って言ってたわけだし。
いやいや、日本に滞在できる戸籍さえ手にすれば別に俺と顔合わせする必要なんてないじゃないか。

うーん、とにかくアンナの話を聞くだけではよく分からない。
ただ会話の中で一つ気になった点がある。
アンナに指示をした人物の存在だ。

「誰かにここにいろって言われたのか?」

「うん、そうそう」

「その人はどこの誰なんだ?」

「うーん、神様が普段どこにいるのかまではよく知らないなぁ」

「かっ……」

大丈夫かこいつ。
変な宗教に染まってるヤツなのか?
あだ名なのか通称なのか知らんが、神様というネーミングセンスはどう考えてもまともじゃないだろう。
これはもしかして新手の新興宗教の勧誘の手口なのだろうか。
アンナのような可愛い信者を洗脳して、一人暮らしの男の家に送り込むという常識では考えられないやり口で新しい信者を無理やり掻き集めるような。
害のなさそうな、無欲そうな顔をして、肉も食うし酒も飲むし金も集めるし人も殺すし戦争もする。
それが宗教の真の姿だ。

いや、でもアンナはサンタの格好をしているではないか。
クリスマスが思い切りキリスト教的要素の強いイベントである事は世界中の誰しもが知るところだ。
という事は新興宗教の可能性は低そうである。
それともキリスト教が思い切り方針転換して信者を集め始めたか?
でもそうなれば流石にニュースなどで情報が出回るだろう。
となると、神様とやらはもしかして何かの闇の組織のボスみたいな存在かもしれない。
だとしたら勘弁してくれ。
俺は変な事に巻き込まれたくない。
ただただ大人しく暮らしているだけの、社会の歯車みたいなサラリーマンなのだ。
クリスマスの盛り上がりにすら関わらないようにして、静かに慎ましやかに生きているのだ。
歯車を止めたり壊したり、あまつさえ逆回転させるような危険を冒す勇気は無い。

そう考えたら訊くのが怖くなってきた。
訊いた瞬間に俺は消されてしまうかもしれない。
でももしこのアンナが危険な組織に関わるヤツだったら、足を踏み入れる前に対処しなければ。

「何か部屋に変な男がいるんだけど?」

「ああ、まぁいい、邪魔になったら消せ」

などと、危険な組織だったらこんなやり取りだって充分ありえる。
何とかして俺と関わらないように説得して、ホテルでも準備して、そっちに滞在してもらうしかないだろう。
恋人もいないのにこの時期にホテルの部屋を取るなんてとんでもない痛手だが、身の安全のためにそれくらいの出費は覚悟しなければならないかもしれない。
というより、部屋なんて空いてない恐れもあるな。
あのフランス料理屋ですら満席になるような、ハイパーインフレタイムが発動中の日本列島である。
いざとなったら警察に通報とか……でもそれもちょっと怖いなぁ。
逆に俺が逮捕されたらどうする?
未成年者略取とか……。

「なぁ、そいつって危ないヤツじゃないよな?」

「そいつ?神様の事?危ない、って?」

「アンナに危険が及ぶとか、俺が誰かに追われるとか……」

「あはは!何それ?面白そう!」

「面白くない!俺は物語の主役になるような人間じゃない!」

「ははは、大丈夫大丈夫。まどっちは全然大丈夫だよ」

何か引っかかる言い方だな……全然主役には見えないって?初対面でそこまではっきり言われるのもちょっと腹立たしい。
まぁ何も起こらないならそれでも構わないがな。

「まぁ良い。とにかく犯罪に関わったり、事件を起こしたりするような事は無いよな?」

「犯罪って?どんなの?」

「ほら、少女売春とか」

「したいの?」

「そうじゃなくて!」

「あはは!真っ赤になったー!変なの!」

ぐぬぬ、女性経験の無いうぶな若者をからかいやがって。
っていうか、やっぱりこいつ18歳未満なんじゃ……。

「犯罪とか私はよく分かんないけど、ここにいるだけだよ」

その言葉、信じて構わないのだろうか……。

「それで、そのうちそいつがアンナを迎えに来るのか?」

「うーん、直接は来ないだろうけど……来るって言うか、私が行くってカンジかな?でも心配いらないよ。ちゃんといなくなるから」

出来るだけ早くお願いしたいものである。
とにかく【長居しない】という言葉を信じよう。
早くとも3日とか4日とかか?
長くとも一週間程度でお願いしたいところだ。

結局会話しても全然問題が解決しなかった気がするが、そもそも俺ではなくアンナがよく把握していない様子なので手も足も出ない。
誤魔化されているだけなのかもしれないが、アンナの言葉が嘘か真かを確かめる術もない。
何となく信じても良さそうなヤツ、という気がするだけである。
そう感じてしまっている時点で、俺は神様とやらの策略に、アンナの笑顔に、まんまとハマりつつあるのだろうか。

続く

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