だから俺はクリスマスが嫌いなんだ:12月24日その2

   

今日も食パンを焼いていると、においに釣られてアンナが目を覚ました。
まだ寝惚けているようで、ベッドに寝転びながら薄目を開けて状況を確認している。

「おはよう。食べるか?」

「うー。食べさせて」

「そっか。よし、じゃぁこっち来て」

言われるままに大人しく起き出し、やはりぴったり寄り添うようにして座った。
もしかして俺は座椅子のようなものだと思われているんじゃないだろうな。
パンを待ちきれないのか、バターを塗る俺の横で大きく口を開け――、

パクリ。

俺の指に食いついてきた。

「おい、目を覚ませ。それは食べ物じゃないぞ!」

「うー」

「うー、じゃなくて」

指を抜いて、パンを食べさせようとしたが、また指に食いついてきた。

「ちょ、何を……」

「せっかく口にあったのにー」

「な、何が?」

「まどっちの指ー!」

寝惚けているわけではなく、狙って指を咥えてたのか!?
目覚めたら咥えていた指が無くなっていた事に怒っているらしい。
という事は夜も無意識に咥えたわけではなかったのか?
座椅子かと思いきや、俺はおしゃぶりだったのだろうか。

何とか指を咥えないように制止しながらパンを食べさせ終えた。
アンナは今日もトーストを5枚食べた。
ようやく目もちゃんと覚めたようなので、気になった事を訊いてみる。

「思いっ切りプレゼントが増えてるけど、こんなにたくさんどうやって運び出すんだ?」

「あはは、たぶん何とかなるよー」

アンナはいかにもサンタクロースが持ちそうな白い袋も持ってないが、実際のサンタは何か四次元的な力で荷物を運んだりするのかもしれない。
ここに荷物がいつの間にか積み上がっているのも既に人間界の常識を超越してしまっているからな。

「思ったより少ないし、大丈夫大丈夫」

「これでも少ないのか?もっと多く配るサンタもいるのか?」

「さぁ?他のサンタさんの事は分かんないけど、いないんじゃないかな?」

「え、でも思ったより少ないって……」

「うん。まだ未熟だからねー。いつかもっと配れるようになるよ。だって他のサンタさん達よりも背負ってるものが大きいもん」

「背負ってるもの?」

「私がサンタになったのは、まどっちの願いを叶えるためだから」

「………………」

誇らしげな表情。
すっかり大人になってしまった俺はもうこんな純粋な表情になる事は出来ないだろう。
俺にはもうアンナの行動を止める権利は無い。
だからせめて少しでも長く一緒に過ごせたら。
ちょっとだけ希望が持てそうな事もアンナの口から放たれたばかりだ。

「なぁ、もしかして、毎年この部屋からプレゼントを配りに行くのか?」

アンナはこれからずっとサンタとして生きていくみたいだし、毎年クリスマスは変わらずやってくる。
飽きもせずショートカットもせず。
だったら毎年会えるかもしれない。
しかし、アンナはそんな期待を瞬時に打ち砕いた。

「うーん、サンタは人間にはバレないように行動するものだからねー。だからまどっちがここにいたのは本当にビックリしたよ」

「って事は……」

「たぶん今年は特別なんじゃないかな?でも大丈夫、どうしてこうなったのか何となく分かってるから」

最初に出会った時もアンナは同じ事を言っていた。
俺にもその理由が今では何となく分かる。
きっと神様とやらが知る機会をくれたのだろう。
【あの時の貯金箱がお前の願いを叶えるためにサンタになったぞ】と。
【喜び誇りなさい】と。
子供の頃の俺なら喜んだんだろうな。
今は素直に喜べなくなっている。
素直に喜べなくなった俺に当時の心を思い出させるために、わざわざアンナをこの部屋に滞在させた可能性もあるだろうか。

とにかく、残り一日をしっかり過ごそう。
その後アンナがどうなるのか、俺がどんな人間になるのか、俺にも分からない。
神様とやらよ、今よりもっと捻くれた人間になっても知らないからな。

身支度を済ませ、アンナに声を掛けた。

「なぁ、これから仕事だけど、アンナはまだここにいるよな?」

「ん?うん」

アンナはとくに考えるまでもなく頷いた。

「ちゃんと鍵を掛けていくから、今日は玄関のチェーンはしなくても良いぞ」

「はーい」

「いってきます」

「いってらっしゃーい」

笑顔で見送られ、部屋を出た。
冬の朝の空気はひんやりとして、駅に向かう人達も皆下を向いて足早に歩いていく。
とてもクリスマスイブとは思えない光景だ。
それでも皆、夜になったらそれぞれの大切な人にプレゼントを渡したりするのだろう。
俺は……アンナに何かを渡せるだろうか。

続く

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