【無料小説】 はじまりの日 恋愛小説

【無料恋愛小説】はじまりの日part.2

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Mickey meets Heidi

さて話は変わるが、僕達の高校には、知る人ぞ知る「お化け伝説」というのがある。僕も入学するまでは知らなかった。
「知る人ぞ知る」と言われる理由は、そのお化けを見た事がある人がほとんどいないからだ。お化けに遭遇するには、それはそれは難しい条件があるらしい。まずうちの高校の生徒じゃないとダメ、というのは序の口で、いざお化けを見たいと思って入学しても、まず見る事は叶わないと言われている。

一人の力では条件が揃わないからだ。

「奇跡」や「偶然」によって成り立つ人と人との出会い。それを「運命」や「必然」という言葉に塗り替えてしまうほどの圧倒的な結び付き。出会うべくして出会った本物の、真実の、純度100%の、恋人の中の恋人。

そんな関係になった二人にしか見れないと言われている。

もちろんそんな関係になった二人共がこの高校の生徒じゃなきゃダメで、要するにお化けを見るのはまず不可能って事だ。
結局この手の話は誰にも証明なんて出来ないし、誰にも体験出来ない。噂が一人歩きをして勝手に都市伝説化したようなものだ。

話を本題に戻そう。入学式の日だけではなく、それ以降もミニーと僕の不思議な関係は続いていた。

自己紹介のインパクトと、漏れ聞こえる僕との会話内容がクラスメイト達に植えつけてしまった、ミニーの猛毒のようなイメージを払拭するのは最早不可能だった。そもそも本人に払拭する気は全く無いようだった。

誰もがミニーに恐れをなして話し掛けないし、ミニーもクラスメイトをカボチャやジャガイモと見做しているかのように話し掛けなかった。「興味のある人が奇跡的に存在していたら話し掛ける」をホントに実践していた。

クラスメイト達は「会話の対象ではない」だけではなく、「いるのかいないのかも分からない」状態にされてしまっている点でもカボチャやジャガイモだった。

ミニーは全く人目を気にしない。誰が近くにいても、誰が聞いていても、僕に言いたい言葉はそのまま口にする。その言葉によって自分がどう思われようが全く気にならないらしい。枠にはまって個性を薄れさせる事を良しとする、学校という集団生活の場において、あまりにも強烈な個性を放つ存在だ。隕石に混じっていた地球に存在しない強固な金属のような精神力の持ち主なのだ。

ミニー
入学レクリエーションとかいうイベントで、動物園へ行くらしいわよ。聞こえの良い言葉というのは陳腐な内容を隠すためのものだったりするから、あまり期待出来ないわね。人間が動物を観察すると同時に、動物達も人間を観察しているんじゃないかしら。動物達の自尊心を刺激して、劇的な進化をさせようと目論むプロジェクトの一環なのかもしれないわね。あなたなんてようやくサル以外から進化した新種の生物と勘違いされて飼育係に捕まって檻に入れられてしまうんじゃないかしら。もしそうなったら私が誤解を解いてあげても良いわよ。だからあなたは私から絶対に離れず行動すべきじゃないかしら

とか、

ミニー
席替えをするらしいわよ。早くクラスメイト全員が仲良くなって欲しいとかいう理由で、好きな席になっても良いらしいわね。そんな事をしたら仲良しグループはいくつか作れても、クラス中を仲良くさせる事にはならないと思うけれど。よく知らない人同士を近付けるから人間関係が広がっていくんじゃないかしら。だからあなたは私の隣になるべきだと思うわ。あなたのような、クラスで最も理解力の無い人が私を理解するためには、同じクラスに所属している間はずっと隣の席である必要があるものね。私は既にあなたの細胞の数を言う事も出来るくらいあなたを理解して、実は既に飽きつつあるけれど、仕方がないから隣で我慢してあげても良いわよ

とか、

ミニー
そろそろ中間試験ね。各教科の授業を受けてきた結果、頭を悩ませるような面白い問題はあまり期待出来そうにないわね。知っている事をただ書き込んでいくつまらない作業で満点になってしまうんじゃないかしら
ミッキー
そ、それはスゴイな。授業を聞いてもよく分からない事も結構あったし、出来たら教えてコツを教えて欲しいもんだ
ミニー
あらそう。何をしているのかしら
ミッキー
え?何が?
ミニー
あら、頼み事をする時は土下座とかいう行為をするイメージがあるけれど、体育で腰でも痛めて曲がらない状態なのかしら?
ミッキー
勉強を教えてもらうだけで土下座するのか!?やり過ぎだぞ!
ミニー
うるさいわね。本来ならば土下座されても一切私の脳内の事を教えたりしないけれど、今日は何故かとても気分が良いから出血大サービスで教えても良いわよ。あまりにサービスし過ぎて失血死するかもしれないわね。でもそんな気分がひょっとしたら中間試験の前日まで続くかもしれないから、毎日お互いの家に行き来して勉強するしかないんじゃないかしら

とか、聞く人によっては色々と関係を誤解されるような内容でもお構いなしだ。

常にミニーは機嫌が悪そうで、行動とは裏腹に、僕と一緒にいる事が嫌で嫌で耐えられない、といった口振りに終始している。僕から話し掛ける時もあるし、ミニーが話し掛けてくる時もある。話し掛けられる事がある以上、僕は「奇跡的に興味を持てる人」という存在なワケで、それに関しては悪い気はしない。

もちろん付き合っているわけではない。僕はただの暇潰しの相手なのかもしれない。

ハイジ
ハロー!こんな所で何をしているんだよ!今は授業中かも!遅刻かも?常習犯かも?
ミッキー
うおっ!な、何だお前は。ちょっと、ホントに遅刻で急いでるんだ、どいてくれ
ハイジ
んー?せっかくだからちょっとお話でもどうですかなんだよ。初対面の相手を邪険に扱うと、とんでもない不幸が降りかかるんじゃけん!そうじゃけん。違うんじゃけん
ミッキー
何だお前は。東京弁を学びに広島から交換留学して来たのか?制服も違うもんな
ハイジ
むっ、別に海は渡ってないのかも。制服だってこの高校の制服なんだよ!そうなのかも?違うかも
ミッキー
おい、どう見ても違うじゃないか。黒いブレザーだぞ、女子の制服は。とりあえず今度ゆっくり相手するから、今は勘弁してくれ。名前は何ていうんだ?
ハイジ
むむむ、先に名乗らないとはどういう了見なのか謎かも!そういう人に教える名前は無い、と私ハイジは宣言する次第なんだよ。肝に銘じておきたまえかも
ミッキー
分かった、ハイジだな。僕はミッキーだ。よろしくな
ハイジ
ハッ、ギクッ、ピタッ、シカッ、クワッ、ゲッ、シュシュシュッ!
ミッキー
ミスに気付いた時以外の擬音がずいぶん交じってるぞ。まぁ良いや、またな!

時は経過し、中間試験どころか期末試験も終わり、夏休み直前で気持ちが完全にダラけて遅刻してしまったある日、廊下で変なヤツと出会った。白いセーラー服に水色のリボン。しかもピンクの髪。カラーコーディネーターが見たらヒステリーを起こしそうないでたちだ。女子の赤いネクタイ以外は男子も女子も真っ黒なこの高校ではとにかく目立つヤツだった。

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どこかで見た制服だな、と思いつつ廊下を歩いていたら、「あれってもしかして昔の女子の制服じゃないのか?」と気付いた。振り向くと、もうハイジの姿はどこかに消えていた。

ちなみに教室に遅れて入っても、隣の席のミニーは僕をチラリとも見なかった。まさかミニーが僕を心配してくれたりするとは思ってなかったけど、ほんのちょっとだけショックを受けた僕は、休み時間に話し掛けた。

ミッキー
おはよう。今日は参ったよ。目覚ましを止めてまた寝ちゃったらしい
ミニー
それを私に言ってどうなるというのかしら。残念ながらどれだけの知識を動員しても出席簿を改竄してもらうのは難しいと思うわ。夜間の学校に忍び込んだり、犯罪的な行為を働けと私に促すのなら不可能ではないかもしれないけれど
ミッキー
そんな事思ってないって!寝坊して遅刻しちゃってさー、みたいな、世間話っぽい話をしただけだぞ
ミニー
あらそう。別にそれは構わないけれど。【せっかく勉強を教えてもらっても平均点しか取れなかった残念な知能だからせめて皆勤賞だけは取りたいんです助けて下さいお願いしますミニー様この機会に今後はミニー様と呼ばせて下さい】と私に泣きついてきているのかと思ってしまったじゃないの、紛らわしいわね
ミッキー
僕は皆勤賞のために魂を売るような真面目な生徒に見られてたのか?でもお前も何だかんだ毎日ちゃんと登校してるな
ミニー
ええ、そうね。学校自体に意味は無いけれど、学校に来る事には意味があるのよ
ミッキー
どういう事だ?なぞなぞか?
ミニー
さぁ、どうかしらね。謎が謎を呼ぶ展開ね。更に次の謎が今や遅しと待ち構えているわ。この授業が終わったら早退しようと思っていたけれど、その必要も無くなったみたいだもの
ミッキー
え?何で?何か用事があったけど行かなくても解決したとか?
ミニー
察しが悪いわね。用が無くなったと思った場所が用のある場所に変わったのよ。地球が逆さまにでもなったのかもしれないわね
ミッキー
……教えてもらっても謎だらけで何が何だかよく分からない……それはそうと、さっきうちの昔の制服を着てる女子に会ったぞ。あんな目立つヤツ、今まで校内で見た事無かったけどな。転校生かな?でもうちの制服だから転校って事は無いのか……
ミニー
何をごにょごにょ女性用の下着売り場のマネキンに必死に話し掛けている男のようにつぶやいているのか分からないけれど、寝坊して遅刻した、なんて言っておきながら実は女生徒と青い春を謳歌していたのね。しかも校内で堂々と旧制服を着せて辱めて、あなたは恥ずかしがる彼女を眺めて悦に浸っていたのかしら、いかがわしいわね。残念ながら皆勤賞どころか退学してもらわなければならないんじゃないかしら。さぁ早く一緒に職員室へ行くわよ
ミッキー
ちょっと待て!話を聞いてただろ!偶然さっき初めて会ったんだ!
ミニー
まぁ、初対面の女生徒の服を無理やり……職員室の後で警察にも行かなければならないわね。裁判であなたに有利な証言をする事はお断りだけれど、たまには面会に行ってあげても良いわよ
ミッキー
冤罪だ冤罪!突然出てきて逆にこっちが驚かされたくらいなのに!
ミニー
うるさいわね。切るわよ
ミッキー
まさか切腹か?打ち首か?それとも学校から切られて退学って事か?
ミニー
違うわよ。着るわよ、って言ったの。着て欲しい服があるなら私が何でも着てあげるわよ
ミッキー
い、いや、そこまでしてくれなくても……

これがハイジとの出会いだった。

実を言うと、ダラけた気持ちになったのが寝坊の原因ではない。そろそろ夏休み間近で、夏休みもミニーと会うにはどう誘うべきか、と思案に暮れていたら寝るのが遅くなってしまっただけだ。

そう、いつの間にか一緒にいる事が当たり前となり、はっきり言って学校の無い土日に会えないだけで時間を持て余すようになってしまったのだ。今は何をしてるんだろう、と考えたり、家に電話したら流石におかしいか?などと考えたり。

人はその感情を恋しいと呼ぶのかもしれない。とにかくしっかりと会う約束を取り付けておかないと、長い長い夏休みは苦痛でしかなくなる。

でも誘えずにいるのは、普通に誘っても会ってくれないような気がする相手だからだ。単純に「会いたい」などとありきたりな言い方をしたり、あまつさえ「好きだ」などと言ったりしたら、どのような罵声を浴びせられるか分からない。そのまま僕は「奇跡の相手」ではなくなってしまうかもしれない。本当に好きだからこそ、今の関係が壊れるリスクを恐れ、そう簡単には伝えられそうにない。

その日は僕がミニーを好きだと自ら認めた日。だからハイジと出会った日がいつなのか、よく覚えている。

その後もハイジは突然現れて話し掛けてきた。突然やってきて、突然去っていく。風と会話しているようなもんだ。

気になって職員室の入り口にある全クラスの名簿を見た事もあるけど、どの学年のどのクラスの名簿にも【ハイジ】という名前は存在しておらず、全く謎に包まれた存在だった。

続く

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