【無料小説】 はじまりの日 恋愛小説

【無料恋愛小説】はじまりの日part.7

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世界中でただ一人

地球上にいる自分以外の誰か。その人と自分とが関わる確率というのは、一体どれくらいなのだろう。

擦れ違う確率は?
目が合う確率は?
会話する確率は?
知人になる確率は?
友人になる確率は?
好きになる確率は?

そして、恋人になる確率は?

考えたって分からない。分からないから、事実だけを考えれば良い。

僕には好きな人がいる。その人に想いを伝えたい。付き合って欲しい。それだけ自分で分かってれば充分だ。

夏休み期間中、新宿の中央公園で毎日待ち合わせをした。

いくつか広場のような所があるけど、ほとんど散歩コースのような作りのこの公園は、あまり一箇所に留まってのんびりと過ごす雰囲気ではない。要するに、広さに反して人が少ない。

駅構内のような人が多い場所と違って、遠くの人影でも判別がつくのが利点だ。そこは確かに先日ミニーが言った通りだ。

ハイジに言われてやってきたものの……何をやってるんだろうな、僕は。今日は何も約束してないし、約束をしていたとしても、今まで待ち合わせは全て午前中だった。

駅から歩いてくる途中、ずいぶん陽射しが眩しかった。今日はいつもと違ってもう太陽が西に傾いている時間なわけだ。なるほど中央公園があるのは西新宿。この時間に駅から向かうと陽射しが眩しいという事を初めて知った。

習慣というのは恐ろしいもので、公園に入ると、一直線にいつものベンチへと足が動いた。今日もベンチで座っていればミニーに会える、と身体が信じ込もうとしているのかもしれない。

ベンチの見える場所まで歩くと、既に先客が座っているのが見えた。

ミニーだ。

向こうも僕に気付き、あろう事か睨み付けてきた。

入学式の日の放課後、僕が振り向いた時に見せた【敵意】と顔に書いてあるかのような表情をしようと思っているのかもしれない。

ホントにとんでもないヤツだ。でも残念ながら失敗だ。全然怖くない。敵意なんて微塵も感じられない。可愛いだけだ。

ミニーも僕が全く怯まない事に気付いたようで、機嫌の悪そうな、普段の会話中の表情に変わった。

しかし視線だけは何かを決意しているかのように力強いままだ。もしかして僕と同じ事を考えているのかもしれない。

【近付いた瞬間、第一声で告白してやる】

そんな風に。

閃きに似た予感を感じた僕は焦った。ミニーには絶対に僕から先に想いを伝えたい。僕は走って一気に距離を詰めた。

突然走り出した僕を見て、ミニーは少しだけ目を見開き、すぐに待ち構えるかのように力強い表情になった。

ミッキー
お前が好きだ!
ミニー
私と付き合いなさい
ミッキー
………………
ミニー
………………

他人の中に私の居場所など無いと思っていた。
私の中に他人の居場所など絶対に無いと思っていた。
気の合う他人がいたとしたら、それは口直しだと私は言った。
クセになる苦味だったとしても、所詮苦い事に変わりは無いのだと。
私は知らなかった。
甘い他人がいる事を。
ああ、腹が立つ。甘い他人がいたなんて。
ああ、腹が立つ。こんなに甘いなんて。
ああ、腹が立つ。こんなに近くにいたのに。

臆病だった私に腹が立つ。

ミッキー
くそー、先に告白しようと思ったのに。引き分けか
ミニー
ちょっと、どこが引き分けなのかしら。あなたは想っている事を言っただけじゃないの。私は今後の二人の関係性についてまで言及しているわ。そんな私と勝負をしようだなんておこがましい
ミッキー
ぐっ、でも好きな気持ちは間違いなく僕が先に伝えたぞ
ミニー
【付き合う】という単語の中にはそれらの感情も全て含まれているのよ。当たり前じゃないの
ミッキー
そ、そうなのか?ホントに僕の事が好きなのか?
ミニー
……何かしら突然。気持ち悪いわね。今はどちらがより高度な告白をしたかというテーマについて考察しているんじゃないの。でも残念ながら考察するまでもないけれど
ミッキー
いや、それならもう僕の負けで良いや。僕はお前の口から僕をどう想っているのかが聞きたい
ミニー
だから【付き合う】という単語に全て含まれているわよ
ミッキー
それでもちゃんと言って欲しい。僕は好きなんだ。ミニーの事が好きなんだ
ミニー
……うるさいわね。【言え】と言われて言うなんてつまらないマネが出来るはずがないじゃないの。みっともない。突き飛ばすわよ
ミッキー
ううっ、せっかく恋人になれたのに……そこは変わらないのか
ミニー
……違うわよ。好きって言い倒すわよ、って言ったの。ええ、そうね。好きだわ。好きよ好き。好き過ぎて大好きになってしまいそうなくらい好きよ。きっと365日、24時間追い回しても飽き足らないくらい好きだわ。想いを既存の言葉に置き換えるのが勿体無いくらい好きよ。好きというありふれた安っぽい言葉が嫌いになりそうなくらいに好きよ。私の言語能力を総動員しても、きっと一生言い表せられないくらい好きだわ。強いて言い表すなら、フライドポテトの次くらいに好きよ
ミッキー
全く素直じゃない!……でも……好きって言われて嬉しいよ。今後もよろしくな
ミニー
………………

私はもう何も言わなかった。

口を開いたら優しい言葉を言ってしまいそうだもの。

横から髪を撫で付けるように風が吹いて、顔に掛かる髪を鬱陶しがる振りをして横を向いた。

彼も同じように横を向いていた。好都合だ。

顔の筋肉が恥ずかしいくらいに緩んで、とても見せられないもの。

嬉しくて笑っているなんて思われたら、みっともなくて生きていけないわ。

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また風が吹いて、ザァッ――と木々が歌うような、草花が会話をするような、そんな音を立てた。

少し離れた場所から、太い木の陰に隠れるようにして、夕焼けに染まる二人の様子を眺める少女がいた。

囁くように放った声は、風に紛れてすぐ消えた。

ハイジ
ふー、やれやれなんだよ。でもめでたしめでたしかも

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終わり

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