【無料恋愛小説】拝啓、わが路~四回目

      2015/05/30

▼目次

  1. 【ハイジ】
  2. 【ハイジ】
  3. 【ミニー】
  4. 【ハイジ】
  5. エピローグ

【ハイジ】

高校に入っても、私は一人だった。
そこはお母さんの母校で、制服はお母さんのお古。
高校の制服のデザインは既に変更されていたけど、高校側が了承したので、私だけ旧制服で通う事になった。
私のうちは制服が買えないくらい貧しいわけではないけど、それは別に構わない。
私は特殊な生徒。

私と関わると、その人はいつか傷付く。
私が傷付けてしまう。
だから、特殊な存在。近寄りがたい存在。そうなるのが一番。
私からは誰にも近寄らない。それで全て上手くいく。

産まれてから今まで、色々な事を言われてきた。
「個性的」
「発想が人と違う」
「普通じゃない」
「天才肌」
「ちょっとおかしい」
「わがまま」
「狂ってる」
色々と。
「何を考えてるのか分からない」
色々と。
「バカ」
「嘘つき」
色々と。
「空気が読めない」
……色々と。

私に関わった人が必ず抱くのは負の感情。
こちらが好意を持てば必ず好意が返ってくるほど、人間は簡単じゃない。
好意を持った人に嫌われたら、私は違う場所へ逃げるしかない。
だから誰とも関わらない。

そう想っていたけど……

【ハイジ】

入学レクリエーションで動物園へ行った時、他のクラスの人達が会話しているのを耳にした。

ミニー
ちょっと、ここのゴリラはずっと背を向けて眠ったままじゃないの。どうしてくれるのかしら。早く起こしてちょうだい
ミッキー
そんなの僕に出来るわけないだろ!
ミニー
あら、そうかしら。訴えるような視線で話し掛ければたぶん大丈夫だと思うわ。人は自分より優る者を妬んでしまうけれど、自分より劣ると判断した者には優しくする気持ちが働くのよ。相手にとっては失礼極まりない話だけれど、上手に優しさだけを見せれば良い人と認識してもらう事が可能よ。ゴリラだってひょっとしたら人間のそんな気持ちが理解出来るかもしれないわ
ミッキー
それって、僕がゴリラより劣ってるって意味だよな……?

今まで生きてきて、一度も出会った事が無いタイプの人達だった。
興味深くて、ずっと後ろをついて歩いた。
ミニー
あなたってもしかしたらライオンみたいな存在かもしれないわね
ミッキー
え?そうか?そんなに勇猛果敢で獅子奮迅ってカンジに見えるか?
ミニー
何を言っているのかさっぱり分からないけれど、あなたはもしかして自らライオンのような存在だと認めて欲しいのかしら?
ミッキー
まぁそりゃ悪い気はしないな。せっかくお前も言ってくれたし、そういう存在だと認めてくれて構わないぞ
ミニー
あらそう。あなたは女性にばかり狩りを任せて、おこぼれに与って命を食い繋ぐ堕落しきったダメ男なのね。将来は引きこもりかしら?それともニートかしら?養う人間の身にもなってもらいたいわね。しかも興味があるのはメスを襲って遺伝子を残す事だけなんでしょう?あまり私に近寄らないでちょうだい
ミッキー
おい、ちょっと待て!そういう意味でライオンって言ってたのか?
ミニー
当たり前じゃないの。他にライオンの要素なんてどこにあるのかしら。あなたは力が強いようには見えないし、たてがみのようなヒゲが伸び過ぎて困っているようにも見えないものね。もし他に当てはまる要素があるとしたら一つしかないんじゃないかしら
ミッキー
一体僕にどんなライオンの要素があるって言うんだ?
ミニー
あら、ライオンは毛が生えているだけで、実際には服を着ていないじゃないの。あなたも普段は裸で過ごしているという事だったのね。そして遺伝子を残す事ばかりにかまけて……やっぱり私に近寄らないでちょうだい
ミッキー
完全に誤解だ!

とても面白い人達だった。
付き合っているようにも見えるけど、彼の方はずっと彼女の言葉に怒ったり困ったりしていて、彼女の方はずっと機嫌が悪そう。
でも会話は絶え間なく続けている。どちらかというと、彼女の方から進んで会話している。
ミニー
それにしてもここは動物が多いわね。流石の私でも一体どの動物がメインなのか見失ってしまいそうよ
ミッキー
メインって?人気があるって事か?やっぱりパンダとかコアラとかが根強い人気なんじゃないのかな
ミニー
違うわよ。この動物園は来園者に一体何を訴えたいのか、というテーマのようなものがきっとあるはずよ。それを私はようやく見抜いたわ
ミッキー
見失ったり見抜いたり忙しいな。で、結局それは何だったんだ?色んな動物の生態について知って欲しいとか、そういうのか?
ミニー
違うわよ。都内のカラスとハトによる被害について問題提起しているのよ。ここはたくさん動物がいるけれど、同様にカラスとハトもとても多いわ。飼育されている動物達の食料を狙っているのよ。彼らがどれだけ貪欲に食料を狙っているのか、ごみ捨てを上手にしないとどれだけ食い散らかされてしまうのか、わざわざこんな広い動物園を作って展示しているのよ
ミッキー
そんなのが目的なわけないだろ!
ミニー
まぁ、違うかどうかなんて実際に訊くまで分からないじゃないの、失礼な。黙ってちょうだい
ミッキー
そんな事言われても、たぶん違うと思うぞ
ミニー
違うわよ。守ってちょうだい、って言ったの。カラスはちゃんと女性や子供を認識して襲ってくるのよ。私が住んでいる品川区のカラスならすっかり打ち解けて私の家族みたいなものだけれど、ここのカラスは見覚えのないカラスばかりだもの
ミッキー
おい、ホントに見ただけでカラスの違いが分かるのか?っていうかカラスと友達になんてなれるのか?
ミニー
さぁ、どうかしらね。その確認のためだけに私を襲わせるつもりかしら?
ミッキー
いや、そんな事はさせないぞ。ちゃんと守るぞ
ミニー
……あらそう。それなら私が襲われないようにぴったりと寄り添っていた方が良いんじゃないかしら
ミッキー
う、うん。分かった……

彼女はどうやら彼の事が好きなんじゃないかと思った。
でも私には人の心はよく分からない。
少なくとも、今まで仲良くしてくれた人達とは全く比べられない。
とても興味深かった。
自分からこんなに誰かに興味を持つのは産まれて初めての経験だった。

そうして私は、機会を窺い続け、タイミングよく彼と会話をする事が出来た。

※3人の出会いについては小説【はじまりの日】をご覧ください

色々あって、彼と彼女は付き合う事になった。
とても嬉しかった。
どうして上手くいったのかはよく分からない。

直接やってもダメだった。
何もしなくてもダメだった。
想いを聞いていてもダメだった。

今回何故上手くいったのか……
私から興味を持ったからだろうか。
二人の事をもっと知りたいと、私から思ったからだろうか。

でもそれもたぶん違う。
二人が元々付き合うべき二人だっただけかもしれない。
私は結局、何もしていないのかもしれない。
全く役に立っていなかったのかもしれない。
それに、この二人が付き合えたからって、過去に傷つけた大切な人達の傷が癒えるわけじゃない。

【ミニー】

どういうわけか彼と付き合い始めることになったけれど、一体全体あのハイジとかいう女の子が何者なのか気になる。突き止めたい。
彼は出席簿にも名前が出ていなかったとか言っていたけれど、よくよく見たらちゃんと名前は載っていた。
彼は彼女の名前が【ハイジ】とカタカナで載っていると思ったらしい。全く早とちりにもほどがあるわ。
そんな節穴の目を持つ大木のように大らかな存在かもしれない彼と付き合い始めて数日後、彼が私とハイジを引き合わせたおかげで、彼女と初めてまともに会話する機会を得た。

やっぱり変な子。という事は面白い子。
他の人はきっと彼女の性質や言動に目を奪われるに違いない。元々がああいう変な子なのだ、と。
でも実際にはそうではないのが分かる。
彼女の言動はどこかぎこちない。変な子を演じているだけ。

その証拠に、彼女は好き勝手に話しているわけではなくて、ちゃんと話を聞いたうえでズレた事を言ってくる。
相手を呆れさせたり怒らせたりするけれど、本気で呆れたり怒ったりしないように会話をコントロールしている。
ハイジは私と彼の表情から、喜怒哀楽を必死に読み取ろうとしている。そんな目をする時がある。
彼女はハイジという外側を使って、内側を見せないようにしているだけ。

それならば私のする事はそこまで難しくない。本当に私の理解の範疇を超えた変人だったらちょっと手を焼くでしょうけれど。
でも私に掛かればほんのちょっとよ。

さぁ、後は一歩ずつ着実にハイジの正体、本質を暴いてやるわ。私相手に演じきる事なんて出来るもんですか、失礼な。
私と彼のキューピッド役のようなマネをしておいて、そのままのうのうと暮らしていけるはずが無いのよ。
固く閉ざした私の心をこじ開けるようなマネをして、腑抜けた恋する女の子のようにさせて……それなりの仕返しをしなければ気が済まないわ。

ミニー
あら、ようやく私しかいない時に会えたわね。この状況を作るだけでずいぶん時間が掛かってしまったわ。ちょっと、逃げようとしてもそうはいかないわよ。こっちに来なさい
ハイジ
むむむっ?私の動きが逃げているように見えるという事は、これから私が逃げたくなるような事をしようと思っているという事かも?それならホントに逃げるのが得策なんだよ!ぴゅぴゅぴゅっ
ミニー
ちょっと待ちなさいと言ってるじゃないの。逃げようとしてもどうせ私の分身の術を見る羽目になるだけよ。トラウマになりたくなければ早くこっちに来なさい。お茶菓子は出ないけれど、お茶を濁したような会話は多少許してあげても良いわよ
ハイジ
んー?その手には乗らないんだよ。こちとら江戸っ子の端くれでぃ!出がらしで満足なんでぇべらぼうめ!だからここから出て行く次第かも。それにもうこの私が実は分身の術で生み出された存在かもしれないんだよ!だから本体の事は何も知らぬ存ぜぬかも。そうなのかも?違うかも
ミニー
要するに私と二人では話したくない、という事なのかしら?私と話してあなたの本質が暴かれるのが怖いのかしら。それとも口が滑って私や彼から嫌われるのが怖いのかしら。どちらでも構わないけれど、あまり失礼な態度を取り続けている方が嫌われてしまうかもしれないわよ。あなたには分からないかもしれないけれど
ハイジ
そんな事無いんだよ!それはそれは身にも骨にも染みておでんの大根のように悲しみが染みこんでしまっているのかも!ちょっと刺せばもろくも崩れ去ってしまう状態なんだよ……むむむっ、とにかく関東風のダシで白くない状態になってしまった私はもう退散する次第かも。そうなのかも。違うかも
ミニー
あらそう。あなたにも人に嫌われる悲しみが分かるという事なのかしら。身体が大根で残念だったわね。卵のように中心にしっかりとした自我があれば、ある程度自分を見失う事なく状況を上手に吸収していけたかもしれないのにね。今の崩れそうな大根をもう一度崩せば今度は卵になれるかもしれないわよ
ハイジ
このままでは激辛スープが染みこんでしまいそうなんだよ!ぴゅぴゅっ!

二人きりで話して、更に彼女の事が分かった。
過去に何かがあって、その傷を抱えて生きているのは疑いようのない事実で、問題はそれをいかにして訊き出すかどうかね。
それにしても、話していて面白い子というのも疑いようのない事実。
ミニー
あら、また二人きりになれたわね。ちょっと話しましょう
ハイジ
んー?私に触れると大変な事になるんだよ。触れたところからどんどん傷口が広がって最後には二つに裂けるチーズしてしまうかも!だから写真撮影も避けてしまう勢いなんだよ。このまま二人も裂けた状態、要するにこのまま会話せずにバイバイした方が良いのかも?熱い話をすると溶けてくっ付いてしまうかもしれないんだよ!そうなのかも。違うかも
ミニー
あらそう。ちょっと言い方が悪かったわね。私が悪かったわ
ハイジ
分かってくれればレバ刺しを今度ご馳走してしまう事もあるかもしれないんだよ。たらればの話はスポーツには厳禁かも。では私は現金を獲得すべくサッカーくじを買いに行くんだよ。ごきげんよう。ぺこり
ミニー
ちょっと待ちなさい。言い方が悪かったわ。私が話す気になっているのに断るなんて、地球上の人類には一切許されていない権利よ。早くこっちへ来なさい
ハイジ
ぎゃー!とんでもない理不尽婦人のお出ましかも!そうなったら私は今後地球外生物としての活動を余儀なくされるに違いないのかも!
ミニー
うるさいわね。良いから大人しく会話していれば良いのよ。それとも私達は友達ではないと言いたいのかしら
ハイジ
とっ…………っ!!

ハイジは驚いた顔を見せた直後、腕を掴んでいた私の手を振りほどいて、走って逃げてしまった。
何故かは分からないけれど、相変わらず素早いわね。
大方予想していた通り、やはり過去に友人関係で何かがあったらしい。
意外と分かりやすい反応でちょっと拍子抜けだったかしら。

このまま更に直接訊き出してしまっても良いけれど、それではちょっと面白味に欠ける。
私は一旦お役御免ね。
どんな結末になるか予想もつかないけれど、果たしてどうなるかしら。
私の仕返しをお楽しみに。

【ハイジ】

ある金曜日の朝、私のロッカーに手紙が入っていた。
味も素っ気も無い、白いルーズリーフ。
差出人の名前も、私の名前も書いていない。

「明日の正午、指定した場所に来るのよ。断る権利は無いわ」

短い手紙。でも誰からの手紙かすぐに分かった。
文章の下には地図が載っていた。
指定された場所は、毎日登下校で通る新宿の中央公園。
何故わざわざ地図を?
余白が多過ぎて恥ずかしくなったのかも?
でも、ちょっと行ってみたくなった。
あの二人と一緒なら、楽しくなりそうだから。

指定された場所を遠くから眺めると、ミニーとミッキーがいた。
いつものように彼らの背後に回り込んで、必然を隠して偶然と突然を装って話し掛ける。

ハイジ
ハロー!まさかこんなところで会うなんてスゴイ偶然かも!まるで時間を合わせたみたいな奇跡的な状況なんだよ。そうなのかも。違うかも
ミッキー
うおっ!何で駅じゃなくて高校の方角から来たんだ!?って、実際に待ち合わせてるんだから会えて当然だろうが。それよりお前がちゃんと来た事が奇跡的って気がするぞ
ハイジ
んー?私は常にここを行ったりきたりする存在なんだよ。そんな軌跡を辿っていると奇跡が巡ってくる事もあるかも。奇跡奇跡って言ってるけど、実際にはちゃんと準備して、目標にして、そうして訪れた結末なんだよね。そう考えたら奇跡なんてこの世にはあり得なくない?泣く泣く泣くなんてなくない?
ミッキー
誰なんだお前は!まぁとにかく来てくれて良かったよ。じゃぁ早速移動しようか
ミニー
そうね。さぁ、行くわよ。あら、身体が硬直する病気にでも掛かったのかしら?このまま引きずっていく必要がありそうね

一体何をするつもりなのかが分からず、立ち尽くす私にミニーが手を差し出してきた。そんな……手を繋ぐ……なんて……
心臓がくすぐられたみたいにむずむずする。何だか居心地が悪い。
でも。
でも……繋いでみたい。
ハイジ
レディーファースト的なエスコートには頼らないレディーがファーストな動きを見せてしまうかもっ!ぴゅぴゅっ!
ミニー
ちょっと、余計な動きをすると私が無駄なカロリーを消費する事になるじゃないの。それともあなたが今日はフライドポテトをご馳走してくれるのかしら?

逃げようとしたらしっかり手を掴まれた。
という事にしたかったから、今の状況は大成功。
人と接した経験が少ない私は、自分から手を繋ぐのは恥ずかしい。
ミニー
あなたも中々素直じゃないわね。まだまだ私には適わないけれど

どこだか分からない目的地に向かって歩き出すと、ミニーが小さく私にだけ聞こえるように囁いた。
驚いて隣を歩くミニーを見ると、何も言わなかったみたいに真っ直ぐ前を見て歩いている。
私の視線に気付いて、横目で私を見下ろした。
ミニー
あら、私の顔に何かついているのかしら?もしついているとしたら、それは私があなたの真実をついたのよ。もしくは不意を衝いたのかもしれないわね

何でもお見通しみたい。
繋いだ手が何だか熱くなった。

一体どんな怪しい場所へ連れ込まれるのかと思ったら、目的地はただの喫茶店だった。
店に入った瞬間、店の一番奥にある六人掛けのテーブル席のお客が目に飛び込んできた。
他のお客と違って何だかカラフル。
きっと、記憶のどこかとピッタリ重なったからだ。
それは三人の女性客。
「あっ」
私が小さく悲鳴を上げると、ミニーが繋いだ手に力を込めた。
たぶん、私が逃げないように。

そのテーブル席に座っていたのは、キヨエちゃんとミサキちゃんとカリンちゃんだった。

どうしよう。
どうしよう。
どうしよう!
今の私は空気が読めないバカで嘘つきで分からない人をしている。
キヨエちゃんと接する私も、
ミサキちゃんと接する私も、
カリンちゃんと接する私も、
それぞれ違う私。違うマネキンの中へ私を押し込めて生きてきた。
今はもうどこにも無い。
マネキンはそれぞれ三人の言葉で壊されてしまったから。
どうしよう……

私が傷つけた三人の大切な人達。
きっとどれだけ謝っても許してはもらえない。
だから、こうして私に会いに……
足が震えて、その振動が手からミニーに伝わってしまっているみたい。

ミニー
悪いようにはしないわよ。あなたはいつものようにふざけた事を思いつくままに話していれば良いんじゃないかしら

恥ずかしかったミニーの手が、今はとても心強い。
足が震えて、身体がすくんで動けない私を引っ張って、店内に入っていく。
私達が来店した事に気付き、三人が泣き出しそうな顔で立ち上がった。

「ハイジちゃん!」「ハイジちゃん!」「ハイジ!」

何が何だかよく分からない。
いつの間にか私は三人に囲まれていた。

「ごめんね」「ごめんね」「ごめん、ハイジ」

どうして謝るの?私だけが悪いのに。
どうして泣くの?まだ泣くほど怒ってるの?
どうして抱き締めてくれるの?私の事なんて嫌いでしょ?

ミニーとミッキーに助けを求めるように振り返ると、もう二人とも店からいなくなっていた。

こうして私は……
空気が読めないバカで嘘つきで分からない。
そんな私は……

エピローグ

ミッキー
ハイジのヤツ、驚いてたな。珍しいものが見れたよ
ミニー
そうね。文句の一つでも言いたいでしょうけれど。今頃は髪でも掻き毟っているかもしれないわ
ミッキー
それにしても、ハイジの昔のトラウマの原因を探し出して解決してやる、なんて話を聞いた時はもっと苦労するかと思ったけど、意外と昔の友人を探し出すのに手間取っただけだったな。確かに昔の顔見知りの中にはハイジに対して良い印象を持ってない人も多かったけど、実際に友人として接してたあの三人はハイジの事を全く悪く思ってなかったのがスムーズに事が運んだ原因だな
ミニー
ええ、そうね。もし本当に何か良くない状況が起こっていて、お互いが憎しみ合ってトラウマになっていたとしても解決したでしょうけれど
ミッキー
そうか?もしそうだったら結構大変だったんじゃないか?
ミニー
あら、私が話せば簡単に解決するわよ。催眠術とか昏睡強盗という言葉を聞いた事は無いのかしら
ミッキー
こら!それじゃ全然解決とは言えないぞ!本人達の意志じゃないじゃないか!
ミニー
うるさいわね。冗談に決まってるじゃないの。でもそうしてしまいたくなるくらい何もする必要が無かったわね。ちょっと拍子抜けじゃないかしら
ミッキー
だったらもうちょっと成り行きを見守ってから店を後にしても良かったんじゃないか?いくら誤解だったとはいえ、いきなりトラウマの原因になってる人が三人も現れて多少は困った状況になってるかもしれないぞ
ミニー
あら、それくらいでちょうど良いのよ。お礼なんて言われたら気持ちが悪くてトラウマになってしまうかもしれないじゃないの
ミッキー
全くお前らしいというか何というか……ハイジもまさか話し方とかキャラクターが変わっちゃったりするのかな?
ミニー
さぁ、どうかしらね。時間が経てば少しずつ変わるかもしれないけれど、そんなに素直な人間だとは思えないわね
ミッキー
お前には言われたくないんじゃ……いや、何でもない
ミニー
ふん。聞こえてるわよ、失礼な

言葉は人を傷付けるとはよく言ったものだ。
悪口、妬み、誹謗中傷、罵詈雑言。
傷付けるだけならまだ良い。
時に人は言葉で死んでしまう。
ペンは剣より強し。
刺された傷口からは目には見えない血が噴き出す。
目に見えないだけに性質が悪い。
肉体ではなく心が流す、悲しみという名の黒い血液。
血を流し続ければ、いつか心は死んでしまう。
心が死んでしまったら、肉体だっていずれ死ぬ。

その傷口を塞ぐには別の言葉が必要だ。
愛の言葉、優しい言葉、感謝の言葉。
言葉は人の心を癒すとも言われる。
人を癒し、生かす力がある。
時に言葉は薬よりも強力だ。
薬なのか毒なのか。
使い方はその人次第。
生かすも殺すもその人次第。

分かっているのに、人は人を言葉で傷付ける。
分かっているから傷付ける。
意図していない時もある。
勘違いや擦れ違い、行き違いや食い違い。
人は言葉に揉まれ続けて生きていく。

さぁ、どうだったかしら?
宣言した通り、仕返しに成功したんじゃないかしら。
私と彼のキューピッド役のようなマネをしておいて、そのままのうのうと暮らしていけるはずが無いのよ。
固く閉ざした私の心をこじ開けるようなマネをして。
腑抜けた恋する女の子のようにさせて。
この上ない幸せをもたらされて。

せめて同じくらい喜ばせなければ気が済まない。

それが私の仕返し。

という名の恩返し。

         終わり

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