結局夏休みは毎日彼と過ごしてしまった。相変わらず何を言っても傷付かない様子で腹が立つ。隕石に交じっていた地球外鉱物でも身体に仕込んでいるんじゃないかしら。それともダイヤモンドか何かなのかしら。鉄クズくらいにしか輝かないクセに。
いくら会話で攻撃していても全く埒が明かない。どれだけ押し返そうとしても無駄らしい。それならば別の手段を取らなければならない。
彼は私が好意を示すような言葉でからかう時だけは真に受ける素振りをする。そんな彼の様子に私は当然気付いている。
……本当に告白したらどうなるのかしら。
私がどれだけ攻撃しても押し返せないのなら、私が彼の世界に入って行っても押し返されないのかを確かめたい。
もしそれが出来れば……私はきっと……嬉しいと思うのかしら。
再び学校生活が始まってしまうと、また周りは人だらけ。カボチャやジャガイモの集まりだと思っているから誰に聞かれようと問題ないけれど、ハロウィンじゃあるまいし、カボチャ畑で告白というのはあまりにもムードが無い。
お盆も過ぎ、夏休みが残り2週間となった頃、私は彼に告白をする事にした。
告白するのは夏休みの最後の日。何も予定は無いけれど、話の流れで私は予定を保留にしておいた。その日に突然彼の家まで行って驚かせて告白しようと決意した。
決意した翌日から、白い制服の女の子を再び見かけるようになった。
夏休みなのに制服、しかも学校へ行くわけでもないらしい。中々興味深い趣味をしている。という事は面白い子。
気のせいかもしれないけれど、どうも私は避けられているような気がする。いつか捕まえて引っ立てて話をしなければならないわね。私に興味を抱かせたからには、そのまま避けていられるはずがないのよ。
埼京線で板橋まで向かい、彼の家へと歩いた。とても暑い日なんでしょうけれど、私の身体は暑さや寒さをほとんど感じない。誰が何を想おうと全く気にならないのと同じ……全く腹立たしい。どうしてこんな事を考えなければならないのかしら。
家が近付いてくるに従って、私の緊張は……高まるはずもない。告白なんて初めてだし、きっと今後もそんな機会は無いけれど、大した事では無い。今日は言い間違えずに思った事をただ言うだけだもの。
結果も予想するだけ無駄というものだ。だから告白の言葉も何も考えてこなかった。
私を振るなんて絶対にあってはならない事だもの。もしそんな事になったら……、
……足が止まった。何なのかしら。だから結果なんて予想したくなかったのに。これでは振られるのを恐れて立ち尽くしている可憐で儚く庇護欲をそそる弱々しい女の子みたいじゃないの。
大丈夫。私は弱くない。付き合えても振られても、どのみち永遠に追い掛け回してやるだけよ。
家の前に着いた。呼び鈴を押したものの、何も音が鳴らなかった。
呼び鈴も手も何も見ずに押したから仕方が無い。もし私の手が震えていたら、そんな恥ずかしい姿を自ら見るくらいならもう死んでしまった方がマシだもの。
手を見る。震えていない。当たり前よ。
今度はしっかりと押した。
ピンポンパンポンチョロロロロ~ン
と、平凡極まりない彼の家の割りには奇抜な音が鳴った。全くいちいち腹立たしいわね。
………………。
何も反応が無かった。もう一度押してみる。
………………。
何も反応が無かった。何なのよ全く、私がわざわざ来ているのに誰もいないなんて、失礼にもほどがあるわ。
でも仕方が無い。帰ってくるまで待たせてもらうしかない。既に何度も訪問していて、玄関の脇に大きな庭石があるのを知っている私は、そこに座って待つ事にした。勝手に敷地に入るくらいの行為は最早やむを得ない事態だもの。
そのまま庭石に腰を下ろしたまま、しばらく彼の家の庭を眺め続けた。今日の私の服のように真っ黒の蟻が、芝生と同じような色をした細いバッタの死骸を大群で引きずっていた。女王蟻は良いわね。慕って働く蟻がこんなにたくさんいて。
私を慕う人はどこかにいるのかしら。
私が慕う人は、今どこにいるのかしら。
突然彼の家の門扉の外から声がした。顔を上げると、白いスカートのような布が少しだけヒラリと見えて、すぐに見えなくなった。
何なのかしら一体。近所の子供でも通ったのかしら。
いつもの場所……。
まぁ良いわ。大した距離ではないし、気分転換に一度行ってみて、またここへ帰ってきましょう。
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ぐるぐる廻るよ思考が回る。
それがなんかぐつぐつリアルですねん。
「あら、一体誰がごにょごにょ考えたりしたのかしらね。全くみっともなくて困ってしまうわね」