翌日以降も、午前中に作業をしてミニーとの待ち合わせ場所へ向かう、という一連の行動を変わらずに繰り返した。
この数週間、毎日してきた行動。
ただ、最も大事な部分が変わってしまった。
ミニーが待ち合わせ場所に来ない。
やはり怒鳴ってしまった僕に対して相当怒っているらしい。
確かに僕も怒っていた。
でも、もっと冷静に、しっかりと僕の想いを伝えるべきだった。
本気だから、と。
本気で好きだから、心配だから、許せない冗談もある、と。
せめてもっと上手に伝えるべきだった。
いつもいつも、返信が全く来ないにも関わらず毎日送り続けたメールも、状況が状況だけに送るのを辞めた。
謝るならちゃんと目の前で。
メールや電話での謝罪なんて、きっとミニー相手では本気さが伝わらない。
記念日に見せようと思っていたアイディアは徐々に形になりつつある。
それがちょっと切ない。
果たしてミニーに見せる事が出来るのだろうか。
それまでに会う事が出来るだろうか。
僕を許してくれるだろうか。
いつもの待ち合わせ場所でミニーを待ち続けて数日が過ぎた。
もしかしてあの時からずっと寝込んでいるのだろうか?
どうして演技をしたなんてウソをついたりしたんだろう。
体調が悪いなら、悪いって言って欲しかったのに。
ミニーの家に到着し、呼び鈴を押そうとすると庭からミニーの母親が出てきた。
「おや?ミッキー君?おひさー」
「あ、こんにちは!あの、ミニーさんの体調が悪いって聞きまして……」
「うん、って、あれー?知らなかったの?はぁ、ホントあの子、捻くれちゃって……誰に似たんだろう……あ、ごめんごめん、こっちの話。部屋にいるから勝手に入っちゃって。じゃぁねー」
そう言ってまた庭に戻って行ってしまった。
相変わらず母娘全く似ていない。
いや、物事に動じないところとか、根っこの部分では似ているのかもしれない。
何も反応が無かったのでゆっくりとドアを開けた。
ミニーはベッドで横になっていた。
しっかりと、目を開けて。
ドアを開けた僕をジッと、表情を変えずに見詰めている。
そして次の日。
今日も朝から作業をする。
ここまでとても順調に来ていると言って良いだろう。
いつの間にかもう翌日に迫っている記念日に、ミニーに見せたいプレゼント。
そのプレゼントの前でしゃがみ込み、僕はしばらく考え事をしていた。
ミニーの怒りが収まらなかったら、僕はどうしたら良いんだろう。
ミニーの人間嫌いは常識で考えられるレベルを遥かに超越している。
もし一度嫌われてしまったら、きっとそれっきり。
もう二度と僕と話したいとは思ってくれないだろう。
ミニーにとって、興味のない人間はカボチャやジャガイモみたいなものなんだ。
同じ教室にいても、目も合わさない、挨拶も交わさない、全く他人の二人。
そんな姿を想像しただけで涙が出そうになる。
今日も待ち合わせ場所に来てくれなかったら、またミニーの家へ行こう。
ミニーが「来るな」と言わない限り、何度でも。
気付くと僕の影は小さく小さくなっていて、既に太陽が真南に来ている事がそれだけで分かった。
首筋が焼けるように暑く、顎から滴る汗が下の土を黒く変色させている。
しまった。
既にいつもの待ち合わせ時間に近付いてしまっているかもしれない。
つい物思いに耽りすぎてしまった。
僕は慌てて勢いよく立ち上がり――――
そのまま膝から崩れた。
視界がグルグルと回り、一瞬で吐き気に襲われる。
熱中症――――
と意識の片隅で認識した直後、僕は意識を失った。
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