ハイジがやってきた翌日。
この日も全く身体に、心に力が入らず、朝からベッドに伏せっていた。
作業は今日も休み、母が代わりにやってくれた。
いつもの待ち合わせ時間が近付くと、心がザワザワと、不快な速度の鼓動に変わる。
行きたいけれど、行って何をすれば良いのかが分からない。
もし彼が来なかったらどうするのか。
その時の失望や絶望や喪失に私は耐えられるのか。
もし彼が来たらどうするのか。
素直になれるのか。
また喧嘩しない保障はどこにあるのか。
あれこれ考えていたら、階段を上がってくる足音が聞こえた。
彼との待ち合わせ時間も過ぎ、またハイジが様子を見に来たのかもしれない。
ドアを2回ノックした後、ドアの向こうから現れたのは、彼だった。
驚いて、何も言えなかった。
こんなに嬉しいなんて。
彼を一目見ただけで心が躍り、彼以外に何も持たない自分を思い知らされる。
それが情けない。
最悪だ。
愛しい気持ちも、申し訳ない気持ちも、何も口に出せない。
こんな状況でも全く素直になれない。
私が素直ではないからこんな状況になってしまっているのに。
私は自分自身に何より腹を立てていた。
何故彼が謝る必要があるのか。
彼を怒らせたのは私なのに。
謝らなければいけないのは私なのに。
何を言えば良いのか分からなかった。
彼が私を嫌いになったわけではない事が分かったから。
恐らく……口も利けないほど、嬉しかったから。
言うまでもない。
当たり前だ。
どう返事をしようか思案していると、
彼は慌てて部屋を後にしてしまった。
沈黙の意味を少し勘違いしてしまったらしい。
でも何だか分からないうちに事態は好転していて、羽が折れた鳥のように重かった心が、風もないのにふわふわと舞い上がる羽毛のように軽くなった。
ずっと私を待っていたのなら、明日も彼が待っていてくれるのなら、明日は待ち合わせ場所へ行こう。
そして彼に謝ろう。
素直になれなくても良い。
上手に会話の中に紛れさせて謝れば良い。
私にはそれがきっと出来る。
そして次の日。
朝から久し振りの作業のために庭へ出ると、中々壮観な眺めが広がっていた。
絶対に完璧にとはいかないけれど、それは私のせいでも母のせいでもなくて、地球のせい。
だからそれは仕方が無い。
要するに順調、という事だ。
作業を終えて待ち合わせ場所へ向かった。
今日も暑い。
一応病み上がりの私は、注意して日陰を歩きながら待ち合わせ場所のベンチに到着した。
待ち合わせ時間を過ぎても、彼はやってこなかった。
どうして来ないのだろうか。
まさか昨日の私の態度に、今度こそ腹を立ててしまったのだろうか。
彼が今までに一度も遅刻した事が無いだけに、軽やかだった心がざわつく。
彼は来ると言っておいて来ないような人ではない。
そう、ここ数日は調子を落としていたけれど、本来私は彼の事は何だってお見通し。
色々あったせいで、すっかり自信を失ってしまっている。
ハイジに言われるまで異変に気付かないなんて、完全にどうかしている。
嫌な予感がしつつ彼の家に到着し、庭を覗いた。
芝生の上で、彼がうずくまるように倒れているのが見えた。
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