【無料小説】 だから俺はクリスマスが嫌いなんだ 恋愛小説

だから俺はクリスマスが嫌いなんだ:エピローグ2

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去年のクリスマスイブにアンナを失って途方に暮れていた俺のもとへアンナが戻ってきたのは、わずか10日後の事だった。
俺は年末の仕事納めを終え、年明けの仕事始めまでの約一週間の休暇をずっと部屋で過ごしていた。
帰るべき実家もないし、行きたい場所もない。
俺の願いを伝えた神様とやらの機嫌を損ねないよう、恐らく宗派が異なる神社仏閣への初詣も律儀に行かなかった。
神様とやらがそんな事を気にする器の小さいヤツだとは思えないが、念のためである。

5日間ほどずっと部屋に篭りっきりで過ごし、1月3日、昼頃に腹を空かせた俺は久々に部屋を出て、近所のコンビニへ出掛けた。
12月23日に大量に買ったインスタント食品や冷凍食品がついに底をついたからである。
一際寒くなった冬の空気を切り裂くように早足で歩き、すっかり正月の雰囲気をまとったコンビニで弁当を買った。
クリスマスの雰囲気が微塵も感じられず、今までに味わった事の無い喪失感に襲われたりした。
俯きながら人通りの少ない道を歩き、部屋の前へ。
もう世界を切り替えたりはしてくれないのか?と301号室の無機質なドアに心の中で語り掛けつつ開けた。
その瞬間が、恐らく新たな日常への入口だったのかもしれない。
靴を脱ぎ、4歩で部屋のドアを開け、何の気なしにベッドを見ると――、

アンナが寝ていた。

思考が停まる。
何が起こったのかが瞬時に把握出来ず、デジャヴュのような感覚に襲われ、現実なのか夢なのかすら分からなくなった。
人はあまりにも嬉し過ぎる事が起こると、その状況を素直に受け入れられないものらしい。
そんな馬鹿な、というか、いやいやいやいや、あり得ないでしょ、みたいな。
結果的に、薄いリアクションよりももっと薄い、ノーリアクションになった。
何とも呆気ないというか、何も感動的な演出が無い再会。
いや、むしろこれが演出だったのかもしれない。
俺が外から帰宅するとアンナが部屋で寝ていた、という前回と同じような状況を再会の場面として選んでくれたのかもしれない。
真意は神様とやらに直接訊いてみなければ分からないだろう。
もしかしたら神様とやらは俺を感動させようとしてスベったのかもしれないし。
だって、俺の外出が再会のきっかけだったとしたら、あまりにも意地悪じゃないか。
俺が仕事納めの後も毎日外に出掛けていればすぐ再会出来たかもしれないのに、ずっと外出せずに部屋に篭っていた俺が馬鹿みたいである。

とにもかくにも、あまりにも呆気なく、予兆も前兆も無くアンナが現れた事で、何となく俺には【良い事が起こった】という確信があった。
アンナがいる事が【事件】になってしまってはダメなのだ。
【事件】は最終的に何かしらの解決を迎え、いつか風化していく。
俺はアンナがいる【日常】が欲しいのである。
いつまでも変わらず、いつまでも終わらず、でもいつまでも飽きる事の無い【日常】。
とはいえ、アンナと再会出来た事は当然俺にとって大事件であり、状況を飲み込んだ瞬間に一気に興奮状態になった俺はベッドに駆け寄り、仰向けに横たわるアンナの肩を揺すった。

「お、おい!アンナ?起きてくれ!」

「ううーん?まどっち?」

目を覚ました瞬間に抱き締めた。

「ふえっ?まどっち?大丈夫?」

「おかえりアンナ。おかえり」

「私?おかえり?まどっちじゃなくて?」

まだ寝惚けてよく状況が把握出来ていないらしい。
まぁ確かに俺もコンビニからおかえりで正しいのだが。

「良かった。死んだのかと思った」

「え?まどっち?死にそうなの?」

「死なない!」

そのやり取りに笑いを堪えきれなくなった俺を、アンナは真っ青な瞳で不思議そうに見詰めていた。

さて、こうして感動の?再会を果たした俺達。
演出してくれた神様とやらの手前、そう表現しておこう。
早速アンナにどうして戻ってこれたのかを訊いてみた。

「今日はどうやって戻って来たんだ?」

「うーん、また神様が作り直してくれたみたい」

「そっか。ごめんな。もう絶対にアンナを壊したくない、って思ってたのに、俺のせいで」

「あはは。まどっちのせいじゃないよー。【人間社会】の試験は【人命救助】だからねー」

その二つの単語がどう結び付くのか、ただの人間である俺にはさっぱり分からないが、やはりそうか。
神様とやらは俺がこの部屋で命を落とすような状況を作り出し、アンナが上手く対処して阻止出来るかどうかを試験していたのだろう。
俺のために自己犠牲の精神を見せたアンナは見事試験に合格し、サンタとして復活する事が出来た。
でもそれって、ずいぶん乱暴な話じゃないか?
俺かアンナのどちらかが死んでしまうような状況を作り出すなんて。
やはり神様とやらは、人の命を命とも思わない闇ブローカーのような存在なんじゃないだろうな。
いつか必ず直接文句を言ってやるから覚悟しておけよ。
もちろんその後で感謝の言葉をこれでもかと言ってやる。

「なぁ、アンナ。ここにはずっといられるのか?」

「うん。クリスマスにプレゼントを配る時以外は何もする事が無いから、好きにしてて良いんだって。サンタって暇なんだねー」

「あはは。究極の短期アルバイトかもしれないな。じゃぁもう学校にも通わなくて良いんだな?」

「うーん、どうなのかなー?一人前になれた、っていう実感が湧かないから」

真剣に悩むアンナの頭を撫でた。

「アンナはもう立派な一人前のサンタだよ」

「そうなの?見ただけで違いが分かる?」

アンナは自分の腕を見たり足を見たり背中を見たり、キョロキョロし始めた。

そうじゃない。
アンナの見た目は変わらない。
でも俺は、アンナが一人前のサンタになれた事を知っている。

「うーん、前と同じ身体みたい。ねぇ、まどっち。どうしてそう思うの?」

「一人前のサンタになる条件って、俺の命を助けて、俺の願いを叶える事なんだろ?」

「うん。でも私が叶えたのはまどっちの子供の頃の願いなんでしょ?」

「大丈夫。ちゃんと今の願いも叶ったよ」

「そうなの?私が叶えたの?何もしてないと思うけど。何を願ったの?」

残念ながら口づけしながら伝えた俺の願いはアンナの心に届いてなかったらしいが、それならそれでまだ伝えなくても良いだろう。
心配しなくても、アンナは完全に俺の願いを叶えている。
目の前に、話せる距離に、触れられる場所に、アンナがいる。
きっと俺の願いは、アンナがずっと叶え続けてくれる。

  終わり

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