【無料小説】 ファンタジー小説 乃木坂46 逃げ水

「逃げ水」MVを本気で小説化してみた:乃木坂46 3期生初センターに捧ぐ

更新日:

どうも公認会話士です。

このたび、乃木坂46の18枚目のシングル「逃げ水」のMVが公開されました!
早速私も観ましたが、何とも不可解な世界観で、既に世間では賛否両論渦巻いているようですね。
私も一度観た段階では「何じゃこりゃぁ?」といったカンジでした。

まぁだからこそちゃんと意味のある物語として噛み砕いてみたい、という衝動に駆られまして、取り急ぎ小説化してみました。

もちろん私独自の解釈となってますので、「そういう意味じゃないだろ」とか「どういう理解力してんだ」みたいな批判もきっとあると思います。
でもそこは大目に見ていただいて、一つの解釈として楽しんでいただければ幸いです。
登場人物の名前はMVを忠実に再現していきますので、まずはMV内でのメンバーの配役を確認してからお楽しみください!

・見習い侍女
大園桃子 与田祐希
・先輩侍女
齋藤飛鳥(伊丹アスカ)
・コメ派
白石麻衣(伊丹マイ) 生田絵梨花(伊丹イク) 松村沙友理(伊丹マツ)
・パン派
西野七瀬(伊丹ナナセ) 桜井玲香(伊丹サクラ) 若月佑美(伊丹ワカ)
・スケバンチャイナ
堀未央奈(伊丹ミオナ)
・本当のチャイナ
秋元真夏(伊丹マナツ)
・カタブツ清純派
星野みなみ(伊丹ミナミ) 生駒里奈(伊丹コマ)
・疲れたOL
衛藤美彩(伊丹サ)
・疲れすぎたOL
新内眞衣(伊丹シンウチ)
・引きこもり
高山一実(伊丹カズ)
・スケバンニート
伊藤万理華(伊丹マリカ) 井上小百合(伊丹サユリ)
・執事長
緒川たまき

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プロローグ

あれはきっと、ひと夏の蜃気楼――。

夢を持て。
希望を持て。
目標に向かって進め。

そんな事を周囲の大人達は口にする。
でもそれが一体何なのか、具体的な事は誰も教えてくれない。もちろん与えてもくれない。

夢も希望も目標も、私は自分で見つけなければならないらしい。

好きな事ややりたい事が無いわけじゃない。
テレビや雑誌で見掛ける【アイドル】と呼ばれる人達がとても眩しく輝いて見えて、私はいつの頃からか「自分もあんな風になれたら良いな」とおぼろげに思うようになった。
でも誰にもそんな事は言わなかったし、自分でもなれるわけがないと思って諦めていた。
こんな引っ込み思案で気が小さくて泣き虫の私がアイドルなんて――。

憂鬱に鬱屈を掛け算したような梅雨と期末試験がようやく終わり、そろそろ夏休みという晴れやかな日の放課後、クラスメイトの【与田ちゃん】こと与田祐希が内緒話をするように息を潜めて話し掛けてきた。

「ね、ももちゃん、夏休みって何か予定ある?」

「え?っと……」

何と返事するのが与田ちゃんの求める答えなのかが分からなくて口籠っていると、そんな私の性格をよく知る与田ちゃんは答えを待たずに言葉を紡ぎだした。

「予定ないならバイトしない?」

「……バイト?」

「そ。ある山奥に大きなお屋敷があって、そこでお手伝いさんとして働くの」

「………………」

バイトと聞いた瞬間にファストフードやファミレスやコンビニを連想した私の脳内映像とはかけ離れた内容に、私はすっかり言葉を失ってしまった。

「私も一緒に働くから。ね?やろうよ」

「でも……」

「絶対後悔しないから」

なかば強引に押し切られるようにして、私は与田ちゃんと一緒に山奥の屋敷に住み込みで働く事になった。

「想像以上に凄い家だね」

「………………」

私と与田ちゃんはひと夏分の荷物をそれぞれのスーツケースに詰め、半日かけて電車やバスを乗り継いでようやくバイト先の屋敷へと辿り着いた。
周囲に何も無い山の中に突然姿を現すその大きな屋敷には、見上げるほどに大きな木造の門と、左右にどこまでも続く外壁が。
その迫力に圧倒され、引き返すべきかどうか悩んでいると、固く閉ざされていた大きな門が私達の到着を察知したように開いた。
黒い和服を着た綺麗な女性が凛とした佇まいで私達を見下ろしているのが見えた。
冷たい笑顔で私と与田ちゃんを交互に見詰めている。

「伊丹家は不可思議な屋敷です。何を見ても決して驚かぬように」

挨拶する事も、名乗る事も、私と与田ちゃんの身分を確認する事もせず、開口一番そう告げた。
早速突き付けられた不可思議に対し、私は「驚いてはいけない」と妙に決意じみた気持ちになった。
隣にいる与田ちゃんも同様だったのか、何も言わなかった。
女性はそんな私達の心中を察したのか、

「では、参りましょう」

と、屋敷内への進入を促した。

入ったらもう戻れない――。

何となくそんな気がしたけれど、私達の足は前にしか進もうとはしなかった。

「アスカさん、こちら、今日から働くお二人です。屋敷の事、色々教えてあげてください」

屋敷に入ると、私達はまず黒い和服姿の女性【たまきさん】に侍女の待機部屋へと案内され、この屋敷の執事長を務めるたまきさんと同じ黒い和服に着替えさせられた。
部屋の中には同じ格好をした若い女性がいて、私達に背を向けたまま本を読み続けていた。
まるで私達は存在していないかのようだ。

たまきさんが声を掛けると、アスカと呼ばれた女性はようやく本を閉じて振り向いた。

「よろしくお願いします」

恐る恐る頭を下げて挨拶したけれど、アスカさんは何も言わず、ピクリとも表情が動かない。
怪我をしているのか、右手の人差し指と中指を包帯で固定している。
ずっと器用に本のページをめくっていたような……?と違和感を覚えた私が包帯の中身が透けて見えるくらいに凝視していると、私の視線から逃げるように待機部屋から出ていってしまった。

そんなアスカさんの態度をたしなめるでも叱るでもなく、たまきさんは何も言わない。
という事は、ここではそれが正しい振る舞いなのだろう。

しかも後から聞いた話では、アスカさんも私達と同じバイトなのかと思いきや、なんと伊丹家の一員なのだそうだ。それなのに侍女をしているのは何故だろう。

でも、不可思議に驚いていてはいけないのだ。
私達はアスカさんの背中を追って待機部屋を後にした。

アスカさんは私達に指示をするでもなく、台所で一人で食事の準備を始めたので、見よう見まねで作業を手伝い、6人分の食器を広い居間へと運び入れた。

一目見て思った。

不可思議な部屋だ。

部屋の半分は何となく洋風の壁紙や絵画に彩られ、壁の中央に【朝はパン】と書かれた額縁が掲げられている。
もう半分は何となく和風の白塗りの壁で、鎧兜などが飾られ、壁の中央に【絶対米】と書かれた掛軸が掛かっている。
洋室と和室を無理やり一つの部屋にしてしまったような印象だ。
そんな不可思議な部屋の中心には大きな食卓があり、左右に椅子が並べられている。
アスカさんはそんな部屋の状態に合わせるように、洋食器と和食器を3組ずつ並べた。

やがて居間には5人の若い女性達がぞろぞろと現れ、それぞれの席へと座った。
アスカさんがようやく口を開き、私達にしか聞こえないような小声で5人の名前を順番に告げると、どこかへ行ってしまった。

トーストにした食パンと紅茶の前に座るのは、伊丹ナナセさん、伊丹サクラさん、伊丹ワカさん。
一方、空のお茶碗と漬け物と味噌汁の前に座るのは、伊丹イクさん、伊丹マツさん。一つは空席だ。

何やらお互いに牽制し合っているような雰囲気の中、イクさんが皮肉めいた表情で口を開いた。

「まーだそんな妙なものを食べているんですの?ねぇ?」

同意を求められたマツさんがすかさず、

「可哀想にー」

と笑顔で続くと、怒りの表情に震えるワカさんが立ち上がった!
一触即発の雰囲気に私達が硬直していると、その様子を察した隣のサクラさんがワカさんをたしなめ、渋々といった様子でワカさんは腰を下ろした。
そんな中、我関せずといった様子でナナセさんがトーストにバターを塗り始めると、たちまち食卓が食欲をそそる良い香りに包まれ始めた。
良い香りになのか、ナナセさんの優雅な動きになのかは分からないけれど、イクさんとマツさんもうっとりとした表情で手元を見詰めている。

二人の視線に気付いたナナセさんが少し意地悪そうな笑顔になった。

「食べます?」

「「!?」」

ナナセさんの挑発に対し、慌てて視線を逸らすイクさんとマツさん。実は二人ともパンを食べたいのかもしれない。
すると、窮地に陥る二人に救世主が現れた。

食卓の脇の障子がすーっと開くと、そこには炊飯ジャーを抱える綺麗な女性が。

「元気に……」

言いつつ、どすん、と炊飯ジャーを食卓に置いた。

「炊けましたで!」

「「姉さん!」」

……。
…………。

ひとしきり踊った後、幸せそうな笑顔でそれぞれの目の前にある食パンをとご飯を食べ始めた6人。
わけが分からないけれど、でもこの6人は毎日のようにこんな事を繰り返しているらしい。
違う部屋で食事すれば良いのに、と思ってもそんな事を口にしてはいけないのだろう。
きっと食卓はここにしかなくて、どんな主義主張を持った派閥同士でも、食事をするためには顔を合わせなければならないのだ。
ちなみに炊飯ジャーを持って現れたのは伊丹マイさん。コメ派のリーダーらしい。
アスカさんをはじめとした私達侍女に米を炊かせるような事はせず、毎回自ら炊いているらしい。

……わけが分からない。
不可思議過ぎる。
でもそんな不可思議に驚いていてはいけない。

食事の後、私達は屋敷内の色々な部屋を訪問するように命じられ、伊丹家の全員と顔を合わせる事になった。
まずはチャイナ服で過ごす伊丹ミオナさんと伊丹マナツさんの部屋。

「私は中国人なの。その証拠がこれ。ね?中国人でしかありえないでしょ?」

ミオナさんはどういうわけか自分が中国人だと思い込んでいるそうで、ヌンチャクを宝物にしている。
伊丹家の一員の時点で恐らく日本人だと思うし、ヌンチャクもはっきり言って上手ではない。というより、ヌンチャクの使い方をよく知らないらしい。
不可思議な人だ。

「何これ!?えっ!?ぬるっとしてる!?濡れてる!?」

ミオナさんのヌンチャクさばきを見せ付けられている私達の横で突然叫び出したマナツさんは、テレビ番組でよく見る【箱の中身は何でしょう】をやっている。
自分で設置した箱に自分で小龍包を入れ、自分で手を入れてリアクションをしている。
マナツさんはミオナさんと違って自分を中国人と思い込んでいるわけではなく、「この格好なら可愛いし目立つから」というのがチャイナ服を着ている理由らしい。
夢はバラエティタレントだそうで、日々その自主練習に励んでいるのだ。

マナツさんのようにはっきり口にはしないものの、もしかしたらミオナさんも「ハーフキャラ」や「不思議キャラ」としてバラエティタレントを目指しているのかもしれない。
不可思議な人達。
でもそんな不可思議に驚いていてはいけない。

次に訪れた部屋は、恐ろしいほどに整理整頓が行き届いていた。

「整理整頓、礼儀正しい言動、身だしなみや空間を常に清潔に保つのは生きていくうえで当然の事です」

楚々とした様子で抹茶を立ててたしなんでいた二人は、私達を見るなり、そう説教をしてきた。
この部屋で暮らすのは伊丹コマさんと伊丹ミナミさん。
あまりにも清廉な空気に気圧され、自然と背筋を伸ばした。

私達のようにのんびりした他人を寄せ付けないタイプかと思いきや、人に何かを教えるのが好きなようで、私達は掃除や礼儀を時間を掛けて一からみっちり指導されてしまった。
厳しいけれど、優しさを感じさせる指導だったと思う。
ただ、自分達の部屋の中の整理整頓にはこだわるものの、他の部屋にはあまり興味がないようだった。
やはり不可思議な人達。

すっかり日が暮れてしまい、屋敷の中で少し迷子になっていると、暗闇に混じる廊下をフラフラと歩いていく人影が見えた。
気になってついていくと、いつの間にか人影は消え、違う場所から先程よりも更にフラフラしたスーツ姿の女性が庭へと出ていくのが見えた。
もしかして幽霊?と恐る恐る眺めていると、振り返った顔は青ざめ、死人のようにまるで生気がなかった。
青白い人影はそのまま宙に浮いてこちらに襲い掛かってくるような錯覚がして、私達は悲鳴を飲み込んで脱兎のように足をもつれさせながらその場を後にした。

息も絶え絶えになりつつ、待機部屋でアイマスクをつけて居眠りをしていたアスカさんに震えながら報告すると、「ふん」と何故か鼻で笑われてしまった。
詳しく聞くと、二人は伊丹サさんと伊丹シンウチさんといって、ずっと忙しくデスクワークで働き続けているんだとか。
こんな山奥の屋敷の中にどんな仕事があるのか分からないけれど、もしかしたらあの二人の頑張りによって伊丹家は経済的に成り立っているのかもしれない。
不可思議な人達。

「後3人いるよ」

とアスカさんに教えられた情報を頼りに屋敷内の探索を再開すると、何やらひそひそと話し声の聞こえる部屋があった。そーっと戸を開けて中を覗き込むと、犬の絵がプリントされた変な和服を着た女性とナナセさんの姿が見えた。
彼女の名前は伊丹カズさん。この屋敷の引きこもりで、パン派のリーダーであるナナセさんが唯一の理解者らしい。
何とかカズさんの気分を盛り上げてあげようとしているのか、ナナセさんが必死に紙ふぶきを撒き散らしている。
カズさんをパン派に勧誘してるのかもしれないけれど、完全には心を開いてくれないのかもしれない。
不可思議な人。

……。
…………。

ひとしきり踊った後、庭に目をやると、カラフルで派手な格好をした女性二人が立ち話しているのが見えた。
伊丹マリカさんと伊丹サユリさんだ。
二人はとても好奇心が旺盛で、

「ちょっくらアンダー行ってくるわ」

などと言い残しては屋敷の外に出て、たまにアンダー(山のふもとの意味らしい)の様子を見にいったまましばらく帰ってこなかったりするんだとか。
不可思議な人達。

……。
…………。

ひとしきり踊った後、二人はセグウェイに乗ってどこかへ行ってしまった。アンダーに行ったまま戻ってこなくなるような事態にならない事を祈りたい。

エピローグ

こんな不可思議に溢れる伊丹家でひと夏を過ごした私達は山を下り、元の生活へと戻った。
すぐに元の現実が私達の日常に襲い掛かってきて、屋敷での生活は夢か幻だったのではないかという気がしてしまう。

でも伊丹家の屋敷での記憶は、私達の心に深く刻まれていた。

私達はとても大切な事を学んだんだ。

普段どれだけ個人個人が思い思いに好き勝手過ごしていても、何か一つ共通する事柄があれば一つにまとまる事が出来るんだ、と。

それが伊丹家にとっては音楽であり、ダンスだった。
そう、伊丹家の屋敷内では一日のうちに何度か突然音楽が流れ、その時だけは全員が全ての作業を中断し、一糸乱れぬ息の揃ったダンスを一心不乱にひとしきり踊るのだ。
始めは戸惑いながら眺めるだけだった私達も、いつしか自然の成り行きでそのダンスに参加するようになった。
掃除をしていても、食事中でも、睡眠中でも、音楽が流れれば即座に踊り出す。家事をサボるために仮病を使っているだけだとバレる危険性があっても、踊るためなら包帯だって外すのだ。
そんな事を繰り返していくうちに、伊丹家の人達と一つになれたような気がした。

参加した時期が違っても、深く語り合う時間が無くても、一緒に踊ればお互いに一つのグループとして認識出来る。これは凄い事だ。

そして今、私こと大園桃子と、与田ちゃんこと与田祐希は、とある大人気のアイドルグループのオーディション会場にいる。

私はアイドルになれっこないとか、私には無理だとか、そんな事は全く思わなくなった。波風が立たない安全な水の中へ逃げなくなった。

たとえ冷たく無視する芸能界の先輩がいたとしても。
たとえ派閥争いに巻き込まれたとしても。
たとえアイドル以外のバラエティの仕事で無理難題を突き付けられたとしても。
たとえストイックにならなければ生き残っていけない世界だとしても。
たとえ眠る時間もないくらい忙しいスケジュールになったとしても。
たとえ誰にも言えない深い闇を抱える事になったとしても。
たとえ中々芽が出ずにもがき苦しんだとしても。

いつかきっとアイドルグループのセンターで歌って踊れるようなスーパーアイドルになってみせる。
私達にはその可能性があるんだ、と伊丹家の人達が背中で教えてくれたような、背中を押してくれたような、そんな気がするから。

とても綺麗な姿が見えているのに決して手が届かない蜃気楼のようだったアイドルグループの先輩達。
私達もいつか、その一部になれると良いな。

終わり。

あとがき

というわけでいかがだったでしょうか。
なにぶんストーリー性に乏しいMVなので、「サヨナラの意味」と比べるとちょっと内容が薄くなってしまった気もしますが……。

楽しんでいただけたなら幸いです。

ちなみに前回「サヨナラの意味」のMVを小説化した際、感動してくれた人達によってずいぶん色んなところで拡散していただいたようでありがたかったんですが、中には文章をそのまま自分の作品として偽って転載したり、内容を編集して公開するような人もいたようなので、それは遠慮していただきたいです。

以上、最後まで読んでいただきありがとうございました。

公認会話士
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