どれだけ電話しても相手が電話に出てくれない意外な理由とは

何よ、突然。それはそれは色々と、筆舌に尽くしがたい、人生でただ一度きりの昨晩を充実させる事に尽力していたに決まってるじゃないの。時間は止まらない物であると同時に、二度と戻らない物でもあるのよ

どういう風の吹き回しかしら。私にだって話したくない事があるのよ。企業の情報漏えいを常に揶揄する存在でいなければならないと気を引き締めて生活しているのが分からないのかしら

どういう風の吹き回しかしら。あまり吹き回すと竜巻になるかもしれないわよ。ハリケーンが何故かいつも女性の名前になる事を揶揄する存在である事にどうして気付かないのかしら。いつか私と同じ名前のハリケーンが町を壊してしまって損害賠償を請求されたらどうしてくれるのよ。携帯だってハリケーンで吹き飛ばされてしまうかもしれないわ

出られない時間帯である以上、その時間内に何回掛けたのかは重要では無いのよ。重要なのはどれくらいの時間に渡って私の携帯に電話を掛け続けたのかという事よ。そして残念ながら昨日の私は全く電話に出る事が出来ない状態だったわ。携帯電話を鳴らしてしまうわけにはいかない場所だったから着信音を消去していたのよ

ええ、そうね。思ったよりも粘り強かったわね。でも途中で諦めて寝るなんて言語道断だわ。５０回くらい掻き混ぜた納豆ってカンジかしら。次は２００回くらいに挑戦してもらいたいわね

着信履歴なんて見ないわよ。電話が掛かってきている間はずっと携帯を凝視してたわ。見過ぎて穴が開かないように気を付けていたくらいよ

まぁ、移動なんてしたらその後が興醒めじゃないの。留守電にしないのは何秒くらい切らずに粘るつもりなのか測定するためよ。最後の一回だけはずいぶん切らずに粘っていたけれど、それでもトロロ芋くらいの粘りね。残りは全部あんかけチャーハンくらいの粘りだったわ。次回はつきたてのお餅くらいの粘りが欲しいわね。要するに携帯の電池が切れてしまうくらいの長さよ。そうすれば思わず電話に出てしまうかもしれないわ

私が何でも答えると思ったら大間違いよ。それはそうと、私が電話に出なかった時はさぞガッカリしたんじゃないかしら？【どこか出掛けてるのかな】とか【どうして出ないんだろう】とか【何かあったんじゃないだろうな】とか【着信があったんだから折り返し掛けてくれれば良いのに】とか、思わず口に出してしまうくらいに

私を誰だと思ってるのよ。あなたが口にする言葉は常にどこかで聞いているに決まってるじゃないの。屋根の上かもしれないし、ベランダかもしれないし、勝手口の横かもしれないわ。ひょっとしたら物置が通信室へと変貌しているのかもしれないし、極端な話、あなたのベッドの下に潜んでいる事もあるかもしれないわよ。電話を鳴らすわけにいかない理由が分かってもらえたかしら

うるさいわね。盗聴するわよ

違うわよ。公表するわよ、って言ったの。他にも色々言ってたわね。【電話に出てくれないと寂しくて死んでしまいそうだ】とか【声が聞けないと赤ん坊のように夜泣きしてしまいそうだ】とか【数時間会えないだけで僕はもう耐えられないんだ】とか

冗談に決まってるじゃないの。言ってないわよそんな事。そんな事言われたら気持ち悪いじゃないの

当たり前じゃないの。【電話に出てくれないと赤ん坊のように夜泣きしてしまいそうだ】とか【声が聞けないと僕はもう耐えられないんだ】とか【数時間会えないだけで寂しくて死んでしまいそうだ】とか言ってただけよ。さっきのとは全然違うわ