恋人とは食べ物の好き嫌いが違う方が長続きする理由

引っぱたくわよ

うるさいわね。どうせ【このフライドポテトしか食べない女が隣にいるせいでもうすっかりフライドポテトに飽きたというか、徐々に見るのも嫌になってきてしまった。そしてこれはもちろん人間にも当てはまるはずで、お前にも飽き飽きしている。だからそのうち廃棄処分のフライドポテトのようにお払い箱にしてやるから覚悟しておけ。この油の切れの悪い、床に落ちて踏まれてこびりついて離れない無残なフライドポテトのような女め】と言おうと思ったんでしょう？あなたの言いたい事は何もかもお見通しよ

……うるさいわね。そんな言葉をいつまでも記憶にこびりつかせて生きていくと思ったら大間違いよ、いかがわしいわね

さぁ、どうかしらね。それによって一体何が起こるのかしら？まさか奪い合いから殺し合いに発展するくらい、好きな食べものには目が無い二人なのかしら

ええ、そうね。争わないようなケースでも、食べたいのに無理して譲り合ったりするようなくだらない厚意の押し付けや下心のやり取りをしたりして、食事のたびに物凄く疲れてしまうんじゃないかしら

あら、それもどうなのかしら。先に食べ終えた方が物欲しそうにジッと見詰めてくるかもしれないわよ。あまりにも卑しい視線に一気に恋の熱なんて全て冷めてしまうんじゃないかしら

あら、そんなのお互いに押し付け合って、最終的に殴り合いになるんじゃないかしら。喧嘩に負けると口に嫌いな食べものを二人分突っ込まれてしまう食い切りデスマッチになるでしょうね

うるさいわね。食べものの恨みは恐ろしいわよ。あまり侮らない方が良いんじゃないかしら。恋人はいなくても生きていけるけれど、食べものはないと生きていけないものね

ええ、そうね。それならどんな料理が出てきても何とか二人で協力して処理出来るものね。色々な料理を手分けして食べて、二人合わせたら物凄くバランスの良い食事になって長生きするんじゃないかしら

何をごにょごにょいつも料理を作ってくれる奥さんに【イタリアンが好き】と言ったら、徐々にチーズの盛り合わせとか、トマトのスライスとか、オリーブオイルを掛けた生野菜とかばかりになって、日本で買える食材を切って並べただけのこの料理が果たしてイタリア料理と言えるのかどうか分からなくなってきた男のようにつぶやいているのかしら、気持ち悪いわね。とにかく食べものの事となると人格が変わる人もいるから、食事は一人で摂るのが無難じゃないかしら

ええ、そうね。余ったイモを見てしまうと集中出来ないものね

違うわよ。あなたを見てしまうと集中出来ない、って言ったの。って、何を言わせるのかしら、みっともない

もしにらめっこに負けたら食べものを二人分口に突っ込まれてしまうものね