「どどど、どうなってんだこりゃ!?」
12月24日。
ピピピピピ。
目覚ましが鳴り、目を開ける。
何だか部屋が暗い。
普段は目覚ましが鳴る時間はもうとっくに日の出を迎えており、遮光カーテン越しでも部屋はある程度明るくなっているはずだ。
そういえば窓側がプレゼントの山になっていて、陽射しを遮ってるんだっけ、と徐々に昨日の記憶が甦ってきた。
ピピピピピ。
目覚ましを止めようとしたが、右手が動かない。
何と親指が目の前に横たわる女性の口に咥えられている。
そういえばアンナが咥えたまま寝てしまったんだっけ、と昨日の記憶が甦った。
そーっと口から出し、目覚ましを止めた。
暗い中、親指を見ると、完全にふやけて真っ白になってしまっている。
濡れた親指を咥えると、何とも言えない甘い味がした。
さて、起きて朝食を作ろう、と上半身を起こし、窓側のプレゼントを確認しようと振り向いた途端にとんでもない光景が目に入った。
そこで冒頭の叫び声に繋がるわけである。
あろう事か、プレゼントの数が増えている!
ベッドのすぐ脇、もう部屋の半分近くがプレゼントで埋め尽くされている。
昨日からあったプレゼントがそのまま部屋の中心近くに押し出され、その後ろにまたズラッと新たに並べられているみたいだ。
なるほど、プレゼントは玄関から運び込まれるのではなく、窓の方から地層みたいにして出現するようだ。
などと、そんな事を悠長に分析している場合ではない。
このままでは明日にはプレゼントに埋まって窒息……、
……アホか俺は。
そんな事にはならないじゃないか。
今日の夜中にはこの大量のプレゼントが全部無くなるのである。
果たして良い事なのか悪い事なのか。
確実に喜ぶ子供達が大勢いるわけで、それは凄く良い事だろう。
生きていれば良い事もあるものだ、と一生の思い出にしてくれるかもしれない。
でも俺にとっては?
そしてアンナにとっては?
いや、アンナはこの日のために10年以上サンタになるための勉強をしてきたんだ。
今日はきっとアンナにとって人生最良の日だろう。
でも俺は……。
【子供の笑顔が俺の幸せ】などと、初めて自分の子供が生まれて鼻の下が伸びきってしまっている父親みたいな事を俺は思えるのだろうか。
しかも俺の子ではないし、そもそも見た事も無い子供達だ。
いかん、論点がズレてしまった。
恵まれない子供達が幸せになる分には構わないではないか。
いくらでも、可能な限り素晴らしい一日を過ごしてもらいたい。
思い出さないようにしていたが、かつての俺はそんな事を願う子供だったらしいからな。
ただ、それによってアンナがいなくなってしまう事が問題なのである。
子供達とは別の話だ。
アンナの寝顔を見る。
幸せそうに、安らかに眠っている。
ハァ。
じゃなくて。
パァ。
あれこれ考えてみたが、この寝顔で全てパァだ。
もうこれで良いではないか。
【子供の笑顔が俺の幸せ】はピンと来なくても、【アンナの笑顔が俺の幸せ】だったらいくらでも思える。
嘘偽りのない正直な気持ち。
これも親バカというのだろうか。
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