【無料小説】 だから俺はクリスマスが嫌いなんだ 恋愛小説

だから俺はクリスマスが嫌いなんだ:12月22日その1

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12月22日。
今年もクリスマスがやってくる。
いや、むしろもうすっかりやってきてしまっている。
気の早い街では11月中からイルミネーションなんてものを始めるし、行きつけのスーパーでは10月中からクリスマスケーキの予約を受け付けていた事に俺はちゃんと気付いていた。

だがその頃はまだ鼻で笑ってられるんだ。

「この町の役所にはカレンダーも読めない馬鹿がいるのか?」

とか、

「このスーパーの仕入れ担当必死過ぎだろ」

と。
だが12月に入ると、駅前やスーパーに限らず、一気に世の中全体が俺に襲い掛かってくる。
本来は12月25日をクリスマスと呼ぶらしいが、何故か日本のクリスマスは一ヶ月近く続く。
しつこくて鬱陶しい梅雨前線といい勝負だ。

「今月もクリスマスがあるんだぞ」

と、12月になった途端に誰かが街中を飾り付ける。
冬らしい寒々しさ、夜らしい暗さになる事を許されない街が不気味なまばゆさを放つ中、ショップ店員達はカラーコンタクトを入れた目をLEDのようにギラつかせる。
その目で特殊な透視能力を発揮して、分厚いコートの懐に隠れている客の財布を引き摺り出そうとしているのだ。
一人、また一人、獲物が店の中へと消えていく。
上手く金を抜き取られた事に気付かず、浮かれた笑顔で店から出てくるのだ。

くだらんくだらんくだらん。

そんなものは極力見ないようにして、最寄駅から自宅マンションまでの道を、下を向いて一気に通り過ぎる。

「プレゼント包装、無料で承りまーす!」

「今ならまだケーキの予約間に合いますよー!」

「この冬の新作バッグ、もう残り僅かでーす!」

うるさい。
俺に話し掛けるな。
チラリと顔を上げると、いつも暇そうな高級フランス料理屋が目に入った。

「23日、24日、25日は満席のため予約はお受け出来ません。26日、27日はまだ数席空いております」

なんて貼り紙が入口に貼られている。
マジかよ。
高級レストランに逆に食い物にされる人間達。
なるほど、道理でクリスマスは俺の性には合わないはずだ。
俺はホラー映画が大嫌いだからな!

帰宅。
はぁ、疲れた。
12月になると、クリスマスが終わるまで、こんなカンジで余計な体力と精神力をすり減らしながら駅前を駆け抜けなければならない。
大学時代に住んでいた街もそうだったし、去年の春の就職に合わせて引っ越してきたこの街でもそうだ。
毎日頑張って駆け抜けても誰も褒めてくれないし、誰もねぎらってもくれない。
一方駅前は暮れない年末、クリスマスカラーの紅(くれない)の年末。
……はぁ、くだらん。
脳がまともな考えを繰(く)れない状態になっている。

さて、それはさておき、我が部屋のなんと静かな事か。
冬らしく寒く、夜らしく暗い。
聞こえるのはせいぜい冷蔵庫のモーター音くらいなものである。
それだって去年の春の引っ越しに合わせて購入した最新の機種なので、俺の幼少期を支えてきた実家の冷蔵庫よりも遥かに静音機能に優れている。
クリスマスとはかくあるべき。
静かに厳かにしめやかに。
プレゼントが欲しいという物欲や、美味しいパーティー料理を食べたいという食欲、好きな人とクリスマスを過ごしたいという独占欲、あわよくばという性欲、それを周囲に自慢したいという自己顕示欲。
そんなものがぶつかり合うから揉め事が起こるんだ。
何もしなければ何も起こらない。
きっと神様とやらもそう願っておられる。
ま、神様とやらを俺は信じちゃいないがな。
そもそも神様とやらを信じなければクリスマスなんてイベントも無くなる。
この説できっとノーベル平和賞くらいもらえるんじゃないだろうか。

そんな想像をしながら、真っ暗な部屋の中を歩く。
玄関を上がると、すぐ左側がキッチンで、右側のドアの向こうは風呂とトイレと洗面台と洗濯機置き場、正面がダイニング兼リビング兼書斎兼寝室だ。
間取りは1K。
その狭さが良いではないか。
一人暮らしならこれで充分。
玄関兼キッチンの電灯をわざわざ使わず、真っ暗で何も見えない状態でも、正面の部屋まで何の問題も無く辿り着く事が出来る。

靴を脱いでドアまで4歩。
左手でドアノブに手をかけ、部屋に入り、右手で部屋を照らす電灯のスイッチをパチンと点けた。
無駄の無い動き。
ドアを開ける任務を終えた左手は、既にネクタイすら緩め始め――、

「!!!?」

息を呑む。
滑らかだった全身の動きが一瞬で止まる。
同時に心臓すら止まるかと思ったが、逆に鼓動は急激に速まり、檻に捕えられた野生のアライグマのように大暴れを始めた。
再度目を凝らす。
見間違いではない。
急激に視界が明るくなったために見えた幻でもない。
部屋の右側にあるベッドの上に――、

女が横たわっている。

続く

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