【無料小説】 だから俺はクリスマスが嫌いなんだ 恋愛小説

だから俺はクリスマスが嫌いなんだ:12月22日その3

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【飛び出すな車は急に止まれない】

そんな交通標語がずいぶん昔に広まったらしいが、世の中には車以上に全く止まってはくれない物がある。
歩道を暴走したり、コンビニに突っ込んだり、高速道路を逆走したりする車も多いが、あれは別に車のせいではないのだ。
車はブレーキを踏めば止まるのである。

でもそれは、ブレーキをかけたくても全く止まったりしない。
皆もよく知ってるだろう?

そう、【恋心】だ。

……。
…………。
………………。

うそうそ、冗談冗談。
彼女いない歴24年、前世も合わせたらたぶん104年くらいの俺が【恋心】なんて言っても信憑性が無い。

真面目に言うと、そう、【時間】だ。

俺がクリスマスを嫌がっても、2年前の賃貸契約時まで戻って契約書を確認し直したいと思っても、1Kの狭い部屋で突然若い女と同居する事になっても、時間は常に正確に確実に前へと進んでいく。

一旦会話が落ち着いた後、過去の給与明細やスマホの契約書やテレビの説明書など、とりあえず重要そうな紙を適当に入れて保管してある箱の中から無事に賃貸契約書を見付け出した俺は、自分がまだ301号室の住人である事を再確認した。
少なくとも来年の3月までは今の契約が残っていて、双方から契約解除の申し出が無ければ、そのまま自動的にまた2年更新される、そんな契約だ。
いやはや、一安心である。

これでもう何も気にする事なく、心置きなくリラックス――、

出来るわけないだろ!

いかん、慣れない乗りツッコミなどをしている場合ではない。
俺の部屋に、俺の視界にアンナが存在する限り、問題は何一つ解決なんてしてないんだ。

気合いを入れてアンナを睨みつけた。
何か俺に不都合な事が起こるようなら、毅然とした態度で追い出さなければならないだろう。
紙切れ一枚が人間よりも強い事をアンナにも教えなければならない。

そんな俺の視線に気付いたアンナは、屈託の無い、あどけない、敵意も悪意も無い笑顔で見詰め返してきた。
ふ、ふん、美女の笑顔が何よりも強い世の中だと思ったら大間違いだぞ。
突然契約書が白紙になってしまいそうな笑顔に恐れをなした俺は、慌てて契約書を箱に戻した。

続く

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