【無料恋愛小説】拝啓、わが路~三回目

      2015/05/30

▼目次

  1. 【カリン】
  2. 【ハイジ】
  3. 【断】
  4. 【カリン】
  5. 【ハイジ】

【カリン】

入学以来、その子の噂は何度か聞いた事があった。
どの噂もあまり好意的には彼女を評していなくて、中には酷い内容と思えるものもあった。
「頭がおかしい」
とか
「狂ってる」
とか
「○○」
とか
「△△」
とか、そういうの。下品な言葉は嫌いだから自重しとくけど。
主に同じ小学校出身の人達による噂だ。
でも実はほとんどの人が彼女とあまり話した事が無いのは薄々分かっていた。
きっと噂の半分以上は誰かが面白半分、冗談半分で流したのだろう。
多くの人が同じ認識をして、それで日々が上手く回っていくのなら、違う新たな意見は中々聞き入れてもらえない。
噂を払拭するのはとても難しい。
間違った情報でも、皆が信じれば真実になってしまう。
それがいじめだと言うのなら、それはきっとそうなのだろう。
誰も他人の痛みなんて分からない。だって……他人の痛みだから。

ウソだかホントだか分からない噂で塗り固められた彼女の個性。
自分がそんな事をされたら嫌だな、と思う。
少なからず誰にだってそういう感情はあるはずだ。
でもそれが好き勝手に他人を評すのを止める防波堤にはなってくれない。
実際、あたしもそうされているからよく分かる。
目が切れ長で鋭いうえに、4分の1海外の血が混じっているあたしは、髪も産まれ付き明るい茶髪だ。
何もしなくても不良だと思われる。
実際そんなカンジだったらしい両親に育てられた影響で、他の人より言葉遣いも悪い。
そんなあたしの噂を払拭するのもまた、同じくらい難しい。
勝手に言わせておけ、とたやすく諦めてしまった方が楽なくらい。

ほとんど話さない彼女がホントはどんな人間なのか、とても興味がある。
そう思っていたら、ようやく同じクラスになった。
しかも隣の席。
しばらく眺めていたけど、動きや表情だけではとても人間性は分からない。
特に挙動不審でもないし、突然奇声を上げたり独り言を言ったりするわけでもない。
成績も入学からずっと学年トップ。
ただの大人しい秀才にしか見えない。

「なぁ、あたしカリンってんだけど、あんたいつも誰とも話さねーよな。何で?」

「話さないわけではないかも。沈黙は金なり、という事を考えると、沈黙も会話のテクニックの一つと捉える事が出来るんだよ。要するに私は何をしていても常に話し続けていると言えるかも」

「ふーん、でも会話って相手がいねーと成立しねーんじゃねーの?あんたいつも一人じゃん」

「むっ、会って話すと書いて会話なんだよ。だから私は確実に誰かに会っているのかも。それは未来の誰かかもしれないし、残像として残る過去のこの学校の生徒かもしれないんだよ。そうかも?でも違うかも?」

何だかよく分からない。
もしかして噂通りの子なのかもしれない。
でも話しかければちゃんと反応はするらしい。
あたしが話し掛けても全く物怖じしない様子で、そこは好印象だった。
噂で作り上げられた認識を持たれる者同士、きっと色々と分かり合える事もあるはずだ。
これからはもっと話し掛けてみよう。
そんなあたしは、中学三年生。

誰もが恐れて話し掛けてこないこんなあたしにも、一人だけ仲の良い男子がいる。
別に付き合っているわけではない。
何となく馬が合う、というヤツだ。
そいつはあたしの外見なんて気にしないし、あたしの言葉遣いも気にしない。
話していて楽なヤツ。男女とかそういうのを意識しない相手。
それがカツユキだ。

他の男子は女子を意識し過ぎなのか、ほとんど女子には話し掛けてこない。
いつも男子で固まって、ゲームとかアニメとか、そんな話をしている。
あたし以外の女子に対してもそんな有様だ。
当然あたしに話し掛ける男子なんていない。
廊下で擦れ違うと、ちょっと避けるような動きさえする。
突然殴られるとでも思っているのかもしれない。
そんな動きをされると、逆にホントに殴ってやりたくなる。

陰で付き合ったりしてるのも数組いるらしいけど、他の生徒の前ではそんな素振りは見せない。
学校の中では、男子は男子、女子は女子で固まっている。
まるで男女が仲良くしてはいけない校則があって、皆が真面目に従っているみたいだ。
そんなわけだから、女子と気軽に話すカツユキはモテる。
あたしには関係ないけど。

少しハイジとも打ち解けた頃、あたし達は修学旅行に出掛けた。

「暑ちーなー、どっかで冷たいもんでも飲もー」

「うん。暑い時は冷たい物を飲むより、水を被る方が良いかも?そうすると気化熱によって体温が下がって涼しく感じるはずなんだよ。むっ、つい真面目な話をしてしまったかも。熱い議論を交わせば周りの空気が冷たく感じるという実験にたった今失敗したところなんだよ」

「妙な事考えてんだな。あたしなんかとじゃ議論にならねーだろ」

「そんな事無いかも?きっと一人だけが異常に興奮状態でまくし立ててしまっても議論という呼び方ができるかも。でも異常な議論は異論と呼ぶべきかも。という事はリラックスした状態の今はリ論なんだよ。だからこうして論理的に言ってしまうのかも」

とか、

「何かスゲーなこの寺。仏像が大量に置いてあんぞ」

「これだけたくさんいると一人くらい本物が混じっていても誰も気付かないんだよ。1001柱じゃなくて1001柱プラス一人になっている恐れがあるかも?でも神様と人の単位は違うから、結局は人間が混じっていても1001柱である事に変わりないのかも。仏像は柱なのに、柱は本と数えるという理不尽に本物が怒って降臨してしまうかも?そうかも?でも違うかも」

とか、

「ハイジ、あんたずいぶん京都に詳しいな。この辺に住んでた事でもあんのか?」

「地球規模で考えると、東京と京都はとても近くなんだよ。だから外国の人にとっては、私はずっとこの辺に住んでいる事になるのかも。でも残念ながら家からすぐ近くのはずの名古屋とか静岡とかはあんまり詳しくないんだよ。要するに家の近くの商店街で買い物をせずに、つい都心まで行ってしまう感覚なのかも?むっ、そんな事を言うと小さい街扱いをされた名古屋の人と静岡の人が一揆を起こしてしまう恐れがあるんだよ」

「住んでたわけじゃねーのか。前から興味でもあったのか?」

「うん。子供の頃は東京都が東にある京都だと思っていたんだよ。だから東京都と京都が全く違う作りをしていると知ってショックだったかも。でもどこかに必ず京都があるはずだと思って調べあげたんだよ。そんな私は東京都にとって異教徒のような存在なのかも」

とか、何だかよく分からないし、会話が噛み合っているような気もしない。
でもあたしとハイジは団体行動中もずっと一緒にいたし、自由行動は二人切りで回った。
不思議と全く気兼ねしない相手。ハイジもあたしにとって馬が合うヤツという事なのだろう。

その間カツユキはどうしていたかと言うと、風邪をこじらせたとかいう理由で修学旅行には不参加だった。
全く間の悪いヤツというのは世の中に存在するものだ。

「なぁ、ハイジ。清水寺に行った後にお土産買っていかねー?」

「うん。行く前じゃなくて行った後に買うのがミソかも。買う前だと清水の舞台からお土産もろとも飛び降りる羽目になるかも?きっと京土産がキラキラと綺麗なんだよ。そう考えると先に買う方がオススメかも」

「何言ってんだ。バラまいたら意味ねーだろ。ほら、それはあの、何だ、かっ、カツユキに、買っていってやらねーと可哀想だろ」

「うん。きっと喜ぶんだよ。でも京都に来れなかった事を思い出して悲しくなってしまうかも?だからここはあえて京都を一切感じさせないようなお土産が良いかもしれないんだよ。そうかも?でも違うかも」

「そ、そうか?でも面白れーアイディアかもな。適当にストラップでも買ってくか。そんで使ったら馬鹿にしてやんだ。こんな京都っぽくねー京土産なんて使ってんじゃねーよ。とか言ってさ。ははっ…………ん?何だよ。人の顔ジッと見たりして」

「恋する乙女の顔かも?」

「なっ!ばっ、馬鹿言ってんじゃねー!……………………そんなに分かりやすい顔してたか?」

「うん。とっても嬉しそうな顔かも。憂いそうではなくて嬉しそうなんだよ。嬉しいという思想を売り歩いているような分かりやすい表情は、売れ思想という表現も可能かも。そうかも。でも違うかも。とにかく嬉しそうかも」

「………………マジかよ」

まさかハイジにバレるくらい表情に出ていたとは思わなかった。
ほとんどハイジとしか接していないし、バレるのは当然といえば当然なのかもしれない。
でもカツユキの事は好きでも何でもないし、付き合っているわけではない。
ただ馬が合う。それだけだ。

そうやって自分自身さえ騙せていたはずなのに。
意識しないようにしていたはずなのに。
あたしみたいなヤツが男を好きになるなんて柄じゃないって思ってたのに。

「しょうがねー。言うよ。あたし、実はな……」

【ハイジ】

告白された。
もう嫌なのにな、って思った。
でも今回は私が促してしまったのかもしれない。
カリンちゃんは何だか話しやすくて、私は思った事をそのまま口にしてしまっていた。

前にもこんな事があった。
しかも二回。
二回とも、とても大切な人を失う事になった。
良かれと思った行動が全くの逆効果になってしまった。
思い出すだけで私は私ではいられなくなりそうになる。
あの日から私は、バカで嘘つきで分からない人をしている。

「あたし、実はな、カツユキの事が好きなんだ」

私はどうすれば良いんだろう。
キヨエちゃんの時は、タクト君に想いを伝えて失敗した。
ミサキちゃんの時は、何もしないと心に決めて失敗した。
カリンちゃんは……?

カリンちゃんはどうしたい?
カツユキ君とどうなりたい?
私は何をすれば良い?
カリンちゃんのために、私は何が出来る?
もう嫌われたくない。
でもカリンちゃんの役に立ちたい。好きな人の役に立てる人になりたい。
私が完全に分からない人になってしまう前に。

「ふーん、そうなんだ」

また素っ気ない返事をしてしまった。
どう反応すれば良いのか分からない。
まだ嫌われたわけじゃないのに、過去に嫌われた私と身体が入れ替わってしまいそうになる。
もう私は新しい私を演じているはずなのに。

「ま、あいつ何だか知らねーけど女子に人気あるからさ、付き合おうとかそんな風に思ってるわけじゃねーんだ。でもあたしが好きな事くらいはいつかちゃんと言わねーとなー、みてーな気持ちかな」

良かった。どうなりたいのか話してくれた。
いつかカツユキ君に想いを伝えたい。それがカリンちゃんの願い。

【断】

キヨエちゃんとミサキちゃんに嫌われた私は、誰とも接する事なく生きてきた。
新しい身体に心も入れ替えた。

産まれてから今まで、色々な事を言われてきた。
「個性的」
「発想が人と違う」
「普通じゃない」
「天才肌」
「ちょっとおかしい」
「わがまま」
「狂ってる」
色々と。
「何を考えてるのか分からない」
色々と。
「バカ」
「嘘つき」
……色々と。

私の根底を揺るがし、否定する言葉。
それを浴びると、私は新しい身体へと逃げていく。
性格を変え、キャラクターを変える。
でも本当にそれで変わっているのだろうか。
心の本体は変わっていないのではないか。

そんな事を考えられないくらい、バカで嘘つきで分からない人になりたい。

カリンちゃんは私を見てくれた。
対等に接してくれた。

そのカリンちゃんにも好きな人がいる。
キヨエちゃんとミサキちゃんみたいに。
いつか好きな想いを伝えたいと願っている。

その願いを叶えて欲しい。
それが私の願い。

【カリン】

修学旅行はハイジのおかげで、奇跡的に楽しいまま終わった。
もし彼女が同じクラス、隣の席にならなかったら、そう思うとゾッとする。
きっとあたしは孤立していたに違いない。
それが分かっている以上、修学旅行にも行かなかったかもしれない。
学校のイベントは孤独な人間には苦痛でしかない。
普段の学校生活ではそこまで気にならないけど、そういう時は自分が孤独な人間だと世界から突き付けられているような気持ちになる。
あたしから他の連中に歩み寄る義務も無いし、それって何だか負けてるような気がするし。
要するに捻くれているのだ。
孤独な人間ほど、プライドが高いのだ。
だから、気を使わずに話せるハイジの存在はありがたかった。

修学旅行が終わり、一日の休みを挟んだ次の日。
登校すると、カツユキが数名の女子に囲まれていた。

「どうして来なかったの?」

とか、

「楽しかったよー」

とか言われている。
カツユキは全員の言葉に真面目に返事している。
カツユキの隣には、自分の席でもないのにハルカが座っていて、何だか雌ネコのようなうっとりとした視線を向けている。
ハルカがカツユキの事を好きなのは、誰の目にも一目瞭然だ。
いつでも隙があればいそいそと足繁く話し掛け、カツユキとの親交を深めている。
そしてカツユキと仲良く話す女子がいようものなら、遠くから刺すような視線を向けてくる。
あたしにはあんなマネは出来ない。

でも今日は、周りの女子へ向ける視線がちょっと違うような気がする。
敵意が感じられないというか、カツユキに対して向ける視線とあまり変わらないように見える。
隣にカツユキがいるから周りの女子にまで注意を向ける余裕がないのか?
とにかく、どっちにしてもあたしにはあんなマネは出来ない。
そう、要するにあたしはハルカが嫌いだ。
嫉妬なのかどうかさえも分からない。
ただ間違いなく馬が合わないヤツだ。

その日の昼休み、カツユキと話す機会があった。
既に給食を食べ終え、ハイジと話をしているところにカツユキがやってきた。

「二人とも、修学旅行はどうだった?」

「ああ、楽しかったぞ。風邪引いて行かねーなんてありえねーな」

「学問を修めに行ったような気はしないんだよ。むしろ楽しい事を収めに行っていたのかも?という事は収楽旅行だったんだよ。更に訪れた寺の仏像の数は完璧に数えてきたかも。そういう意味では数学旅行だったかもしれないんだよ。そうかも?でも違うかも」

「あーあ、風邪なんて引いて、ホントにタイミング最悪だよなー。一生に一度しか無いのにさ」

「ま、話だけ聞いて行った気になりゃ良いじゃねーか。そのために……えっと、土産も買ってきてやったんだぞ」

「え、カリンが僕に?へー、それは嬉しいな。あ、ちょっと待って、メール」

いつものような気兼ねしない会話を中断し、カツユキはその場で携帯を取り出してメールのチェックをし始めた。
その携帯に何か既視感というか、違和感がある事にはすぐ気付いた。
カツユキへの土産を鞄から取り出そうとしていた手が固まって、動かなくなった。
何か嫌な事が起こりそうな予感がした。

「お前、そのストラップどこで買った?」

恐る恐る訊いた。
カツユキの携帯に、今まさにあたしが渡そうとしている京土産のストラップと同じ物がぶら下がっている。あまり京土産っぽくない、でも確かに京土産のストラップ。京都府の形をしたチャームがついているストラップだ。

「え?これ?ああ、昨日ハルカからもらったんだ。結構良いだろ?京都っぽさが無いのが逆にさ。どこでも使えるっていうか」

「そっか……ハルカが…………え?昨日?昨日は学校休みだろ」

「そうだけど、昨日家までハルカが来てさ。何かコレ渡すのと同時に告られたり……した」

「はぁ!?」

告られた?
告白……された。
カツユキはハルカに告白をされました。
何だそれ。
心臓を冷たいナイフで撫でられるような不快感に鳥肌が立った。

「それで僕とハルカなんだけど……」

「言うな。聞きたくねー」

ハルカのあの目。あれは目的を果たした女の目だったんだ。
他の女達より自分の方が上。カツユキは自分だけのもの。そんな幸せに酔いしれている目。
気分が悪い。もう結果なんて聞くまでもない。

「そ、そうか?カリンは勘が良いからな。えーと、それで、お土産ってのは……」

「知らねー。からかっただけだ。ホントは買ってねーよ」

「そんな事無いんだよ。ちゃんと清水寺の前でストラッ……」

「言うんじゃねーよ!」

「っ!!」

ハイジは目を丸くして驚いていた。いつも感情をどこかに置き去りにしたような作り笑いしかしない子だったのに。
突然怒鳴ったあたしにカツユキも驚いている。教室の空気も凍り付いていた。

「お、おい、二人とも、どうしたんだよ」

「だって、だって、カリンちゃんはカツユキ君にストラップを買って、それで、お土産に……」

「言うなって言ってんだろ!空気読めよこのお節介!もうあたしの事は放っといてくれ!」

あたしは自分勝手な言葉だけを叫んで、ハイジの返事も待たずに立ち上がり、教室から飛び出そうとした。
もう最悪だ。

「……ごめんね……カリンちゃん」

教室を後にする瞬間、消え入りそうな声が聞こえた。
何で謝るんだ。何も悪くないのに。

ハイジはあたしが中々ストラップを出さないのを、恥ずかしがってるからとでも思ったに違いない。
だからあたしのために助け舟を出したんだ。
あたしはそれを無碍にした挙句、あろう事かハイジを怒鳴りつけてしまった。
カツユキに彼女が出来た苛立ちを、最も言いやすい相手にぶつけてしまったんだ。
もう最悪だ。

結局ハイジとはそれ以降、卒業するまで会話をする事はなかった。
バカなあたしは最後まで素直になれなかった。
頭の良いハイジは、あたしが受けた高校とは全く違う高校へ進学していった。
そんなあたしは今、高校一年生。
今でも後悔の日々は続いている。
もう一度ハイジに会って謝罪したい。
その事ばかり考えている。

【ハイジ】

またこうなってしまった。
どうしたいのかちゃんと聞いていたのに。
カリンちゃんはカツユキ君にいつか想いを伝えたいって言っていたのに。
私が最善と思ったタイミングは、カリンちゃんにとっては違ったみたい。
また勝手な事をして、カリンちゃんを傷つけてしまった。
カリンちゃんの役に立ちたかっただけなのに……
大切な人に嫌われた私は、もう今までの私では生きていけない。

こうして私は空気が読めないバカで嘘つきで分からない人になる。

続く

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