【無料小説】 はじまりの日 恋愛小説

【無料恋愛小説】はじまりの日part.4

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休み無き夏休み

夏休みはウソでも冗談でもなく、毎日ミニーと過ごした。待ち合わせは新宿の中央公園。駅の構内でも良いと思ったけど、

ミニー
人が多いとあなたの冴えない顔が完全に風景に紛れてしまって分からないんじゃないかしら

とか言われた。理由はどうあれ、静かな公園で待つというのは確かに気持ちが落ち着いて悪くなかった。遠くからでもミニーが歩いてくればすぐに判別出来た。

合流した後も別にどこかへ行くわけではない。会話をしていれば勝手に時間は過ぎていった。

ただ、僕がミニーを好きな気持ちは伝えられないし、向こうがどう思ってくれているのかも全く察することが出来なかった。

わざとそういう展開に持ち込んで、僕が慌てるのを楽しんでいるような雰囲気さえあった。猫が鼠を一気に殺さずに、少しでも長く遊んでから殺すように。

ミニー
夏休み初日だと言うのにこうしてあなたのために時間を割くなんて、私がいかに他人では真似出来ない唯一無二の存在であるかという事をこれでもかと確認してしまうわ。唯一であるという事は時に憂鬱を伴う物なのね。まるで油圧式ポンプのようにこみ上げてくる愉悦を説明するにはどうしたら良いのかしら
ミッキー
まぁ確かに僕とこうして会ってくれるのはお前だけだけどさ。憂鬱なのか愉悦なのか分からないぞ?
ミニー
うるさいわね。やる気は憂鬱じゃなくて張り切る愉悦なのよ
ミッキー
ますます言ってる意味が分からないぞ!
ミニー
違うわよ。夜は憂鬱で昼は愉悦、って言ったの。って、何を言わせようとしているのかしら
ミッキー
え、それってもしかして……
ミニー
あら、何の事かしら。こんな炎天下で汗を掻きそうな話をしていないで、早く喫茶店にでも行って更に汗を出すための水分補給をするわよ

とか、

ミニー
ちょうどここへ来る時に、とても覇気の無い死んだ魚のような目をした男……という表現はあまり適切じゃないわね。それでは目が魚の形になってしまうわ。死んだ魚の目のような目をした、黒目がちで形の良い丸い目の男……という表現をしたらまるで褒めているみたいじゃないの。何を考えているのかしら。今日から8月というこの時期に覇気の無い顔をしているから日本語まで覇気を無くすのよ。とにかく覇気の無い顔をした男とはあなたの事を言っていたのよ、反省してちょうだい
ミッキー
別に普通の顔をして待ってたぞ!
ミニー
うるさいわね。覇気を吐き出させるわよ
ミッキー
もう既に僕には覇気が無いんじゃなかったのか!
ミニー
違うわよ。ハキハキし出したわよ、って言ったの。あなたが視界に入ったからよ
ミッキー
え、それって僕に会えて嬉し……
ミニー
ちょっと、こんな炎天下で逆に冷や汗を掻きそうな話をしていたら、あの二人は日陰が涼しい事も知らない無科学少年少女だと笑い者になってしまうわよ。早く水族館にでも行って目の死んでいない新鮮な魚でも眺めたらどうかしら

とか、

ミニー
お盆だというのにこうしてうら若き乙女との逢瀬に励むだなんて、今すぐ先祖に土下座して謝った方が良いんじゃないかしら。あら、何かしら、私も同じだろ、みたいな顔をしているわね。私はこんな事もあろうかと、親類縁者全員に【もし死んでも私だけはあなた達をお盆に供養しないのであしからず】と一筆書いてあるから大丈夫よ
ミッキー
そんな宣誓文を渡される方がよっぽど酷いような気がするぞ。死んだら呪ってやると思っている人もいるかもしれない
ミニー
ホントに書いているわけが無いじゃないの。信じるなんて失礼な
ミッキー
う、ごめん。それは素直に謝るよ
ミニー
先祖が最も望むのは子孫の幸せでしょうからね。だから好き勝手しても大丈夫じゃないかしら
ミッキー
え、って事は僕と会うのは幸せだと思ってくれてるのか?
ミニー
うるさいわね。埋葬するわよ
ミッキー
生き埋めにされるような事は何も言ってないだろ!
ミニー
違うわよ。はいそうです、って言ったの
ミッキー
え、じゃぁやっぱり僕と会うのって……
ミニー
あら、何の事かしら。こんな太陽と火遊びしているような所にいないで、早く虫篭と虫取り網を買いに行くべきじゃないかしら。渋谷にあるテレビ局の近くでカブトムシを探しているフリをしていればきっとテレビ局が取材にきてジュースくらいはおごってくれるはずよ。【やはりここ数年で虫が減ってる気がする】などと言ったりすれば夕方のニュースで映像まで流してくれるわ

とか、聞きたい言葉は全て言い間違いで、更に質問をしようとすると完全にはぐらかされてしまっていた。

猫に遊ばれる鼠そのものだ。

それもそのはず、僕の名前は漢字で夢鼠だから仕方がないのかもしれない。でもそんな事を言ったらミニーだって漢字で黒鼠だ。名前はお互いに鼠なのに、完全に捕食する側と捕食される側になっているような気がした。

いや、散々遊ばれた後に食べてくれるならまだ良いのかもしれない。死体だけを残してどこかへ行かれてしまう事態は避けたかった。

でもこのままでは埒が明かない。夏休みが終わって再び学校生活が始まってしまうと、やはりどうしても日々は惰性を帯び、徒然と過ぎ去ってしまうだろう。そう簡単に告白の機会は訪れないような気がした。

お盆も過ぎ、夏休みが残り2週間となった頃、僕はミニーに告白をする事にした。

告白するのは夏休みの最後の日。要するにミニーが予定を保留している日だ。その日に突然家まで行ってミニーを驚かせて、その勢いで告白しようと決意した。

決意した翌日から、ミニーとの待ち合わせ場所にハイジが現れるようになった。

ハイジ
夏がくーれば思い出す……事がたくさんあるはずなんだよ!それなのに全く私を思い出してくれないというのは心外かも。人権侵害というのは辛亥革命が行われた時代にはままあった事かも?そうなのかも。夏休みは初の登場かも。遥かな尾瀬ー、じゃなくて、初かなオレーかも
ミッキー
おおっ、こんな公園で会うとは思わなかったぞ。って、お前は休みなのに制服着てるのか?
ハイジ
んー?休みに制服を着たらいけない、という校則なんて無いのかも!タンスの中に同じ制服がいくつもいくつも入っているから大丈夫なんだよ。今日は暑いなーと思ったら、夏服用のタンスに冬服が交じっていたのかも!意外と半袖の夏服よりも、日光を遮る冬服の方が夏向きかも?と思ったけど暑いんだよ……くらくらによによ
ミッキー
によによ、という状態が分からないけど、真夏に冬服なんて体調を壊すぞ。早く家に帰った方が良いんじゃないのか。この近くなのか?
ハイジ
むっ?よく分からないかも。落ち着ける場所が家という概念で考えると、地球上は全部住めば都のホームスィートホームなんだよ。あ、そろそろお時間かも。ぴゅぴゅぴゅっ!
ミッキー
あっ!全く……相変わらず素早いヤツだ

とか、

ハイジ
むむむっ!?最近このベンチに座っている事が多いのかも!ちょっとバイトのお兄さん、交通量調査はここじゃなくて、駅の反対側の出口だよ。こんなトコで調べたって炊き出しにはありつけねーぜ?
ミッキー
おお、また会ったな。って、僕は毎日ここにいるぞ?最近ここを通るようになったのはお前の方じゃないか
ハイジ
んー?そんな事は無いのかも。私だって最近は毎日ここを通るんだよ。そうなのかも?違うかも
ミッキー
いや、だから僕が言った通りじゃないか、お前が最近ここを通るようになったからこうして会う機会……
ハイジ
またねかも!
ミッキー
おい!最後まで聞け!

とか、相変わらずハイジの素性に関しては全く分からなかったけど、僕はもうそれで良いと思っていた。突然やってきて、楽しく会話をすると突然去っていく。会いたいと思えばどこからともなく会いにきてくれるんじゃないかと、そんな気もする。

ちなみにミニーもハイジを見かける事があるそうで、

ミニー
ここに来るまでに遠くを歩いてるのが見えたわ

とか、

ミニー
今日は目が合ったのに走って逃げてしまったわね。全く失礼な

とか言っていた。一つだけ気になる事があって、ミニーに訊いた事もある。

ミッキー
あいつってまさか伝説のお化けじゃないよな?
ミニー
あら、よく分かったわね
ミッキー
えっ!?やっぱりそうなのか!?
ミニー
うるさいわね。冗談よ。そんなわけが無いじゃないの。あなたの話を聞く限りではずいぶんと陽気な性格なんでしょう?太陽がサービスの意味を履き違えて無駄に日光を送り届けてきているようなこんな暑い日に、汗だくで走り回っている生命力に満ちたお化けなんていないんじゃないかしら。もちろん既存の概念に捉われないお化けだったらあり得ない話ではないけれど
ミッキー
いやまぁ、お化けの知り合いがいないから何とも言えないけどさ
ミニー
でも伝説のお化けではないと言い切れる理由が一つだけ存在しているわ。伝説の通りだったらどうして私が彼女を見る事が出来るのよ。失礼な
ミッキー
べっ、別に失礼じゃないだろ!

そうなんだ。伝説のお化けに会うには、一生添い遂げる以外の道があり得ないくらい強い結び付きを持つ一人と出会わなければならない。僕でさえそんな相手が世の中にいるなんて信じられないんだ。ミニーの性格を考えると尚更そんな存在は信じていないだろう。

続く

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