【無料小説】 ファンタジー小説 偉大な箱

【無料ファンタジー小説】偉大な箱

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はじめに

どうも公認会話士です。

新たな作品を書くきっかけには色々とありますが、私の場合、誰かから依頼されて書くという事はほとんどありません。
何故かというと、依頼がないからです!
と、いきなり卑屈になったわけではありません。私は元気です。

さて、そんな私でも過去に執筆を依頼されて書いた作品があり、その中の一つがこのたびパソコンの奥からひょっこり出てきたので、公開しちゃいしたいと思います。

この2011年頃に書いた作品は、以前お世話になっていたイラストレーターの方から依頼されたものです。
「イラストレーターと銀細工職人の二人で、イラストとオブジェのコラボレーション作品展をしようと思う。作品の基となるストーリーが欲しいので、原案になる物語を書いてもらえないだろうか」

という内容でした。

私の作品を基にイラストとオブジェが創られる!?それは面白そう!
と思って快諾しました。

というわけで更に細かく話を訊くと、

・テーマは「箱」
・あまり長過ぎない物語
・イラストとオブジェを数点ずつ創りたいので、場面の切り替えがはっきりしているストーリー

を求められました。

「箱」というテーマを聞いた私の頭にはまず3つの案が浮かび、一晩で最初の作品を書き終えました。
で、結果的にそれがすんなり採用されたので、結局完成した物語は1つだけです。

それでは早速お楽しみください。

偉大な箱

 ここは破壊の箱。

「おーい、またきたぞ!」
「おっしゃ、任しとけ」
今日も働き手の元気な声が響き渡る。
入り口から無造作に、無尽蔵に、無闇やたらに物資が投げ込まれ、箱の中を埋め尽くす。中には大小様々の働き手がいて、箱を埋め尽くす物資の到着を待ち侘びている。
時には乳児のような姿も。
時には傾き、倒れそうになっている者の姿も。

彼らの仕事は物資の破壊。

「おーい、行くぞ相棒!」
「おっしゃ、ドンと来い!」
彼らは身体をぶつけ合い、こすり合わせ、疲れ知らずの体力を駆使して物資を次々に破壊していく。働き手である彼らと同様に、投げ込まれる物資も大小様々で、大きな物資は小さく、小さな物資は更に小さく、彼らは破壊していく。

「よーし、こんなもんでどうだ!」
「よっしゃ、乗せろ乗せろ!」
破壊された物資は、うねうねと動きぬらぬらと湿った不気味な床に乗せられる。乗せられた物資がある程度まとまった量になると、床は入り口とは逆方向の暗い穴にポイッと捨てる。
その暗い穴の先がどうなっているのか、彼らは知らない。誰も行った事が無いのだ。穴を恐れる彼らは、強固な足腰で箱の中に留まり続ける。大量の水が押し寄せて来ても、彼らは決して流されない。

数十分に及ぶ破壊行動を休む事無く終えた彼らには、休息の時間が訪れる。
破壊した物資の粉塵にまみれて汚れた身体を綺麗に洗浄し、静かに次の物資が投げ込まれる時を待つ。

ここは物流の箱。

「あーあ、退屈だなぁ」
「ただ見てるだけだからな」
今日も働き手は退屈な時間を怠惰に過ごしている。
どこかからやってくる物資が次々と、塊になりながらテンポよく通り過ぎていく。

彼らの仕事は物資の物流。
しかし彼らが持って運んだりするわけではなく、物資は勝手に流れて奥へと消えていく。注意する事はたった一つしかない。

「あっ、しまった」
「バカ!入れるな!うわっ!痛たたたた!」
ただ物資が流れていくだけの一本道なら、彼らがここにいる必要は無い。この道には何故か物資の侵入を受け付けない横道が開いており、彼らは物資がそこに入らないように見張っている。
いわば門番のような彼らだが、退屈に溺れる彼らの注意力は散漫で、時折物資を横道に侵入させてしまう。
侵入させてしまうと、横道の奥から酷いお仕置きをされる。物資は勢いよく投げ返され、同時に身体を鞭で数回打ちつけられる。横道の気分次第では数十回打ちつけられる事もある。彼らに抵抗は許されない。

「あー、痛かった……」
「もう失敗しないようにしなきゃな」
ひりひりする痛みによってその時は反省する彼らだが、しばらくすると再び同じ過ちを繰り返してしまう。まるで退屈を紛らわすかのように。

ここは分解の箱。

「きたきた。今日は多いな」
「いつもより遅れたからかもしれないな」
今日も働き手は準備万端で待ち構えている。
物資は次々と彼らの頭上から降り注ぎ、どんどん山のように堆積していく。仕事場は広く、窪地もあり、物資を留めておく事が出来る。

彼らの仕事は物資の分解。
とても複雑で難しい仕事で、大小、柔硬、材質が異なる様々な物資を全て分解して内部が見える状態にしておかなければならない。

「さぁさぁ、とっとと掛けちまおう」
「量が多いからたくさん必要だな」
複雑な仕事の手助けとなるのはとある液体。彼らにだけ扱う事を許されたこの液体を掛ければ、どんな物資でもひとたまりもない。表面はどろどろに溶け、柔らかくなる。降り注ぐ物資が仕事場を傷付けないように、仕事場全体がこの液体で覆われている。
時折この液体は彼らの身体にも掛かり、痛めつけてしまう事がある。

「急げ急げ、もう動き出した!」
「後ろに迷惑は掛けられん!」
物資を留めていた仕事場は、ある程度時間が過ぎると彼らが仕事を終えるのを待たずに勝手に物資を次の箱へと流してしまう。
分解が済んでいないと次の箱の作業効率が著しく低下してしまうため、彼らはあまりのんびりしていられない。
物資を全て見送りへとへとになった彼らは、次の物資に備え仕事場を再び液体で綺麗に覆い、しばしの眠りにつく。

ここは分別の箱。

「やぁ、やっと来たぞ」
「よし、それぞれ配置につけ!」
今日も働き手は自らの役割を全うする。
どこかで小さく分解された物資が次々に流れてきては、細長い道を通って奥へ奥へと進んでいく。物資の横にずらっと一列に並んだ働き手である彼らにはそれぞれ別の役割が与えられていて、分解された全ての物資を細かくチェックしていく。

彼らの仕事は物資の分別。

「あ、あったあった」
「おっと、こっちも突然増えてきたぞ」
彼らは分解された物資の中から、自らが必要とする素材だけを選り分け、それ以外は奥へと流していく。速度はゆっくりだが物資は奥へと流れ続け、彼らの手が止まる事も無い。暗くて細くて長い、一本道。

「ここ最近はずいぶんたくさん流れてくるな」
「こっちは全然だ。近々増えれば良いが……」
彼らの目利きの能力は並外れており、既に必要とする素材の量を確保していても、更に流れてくれば見逃さずに手に入れる。彼らの一人ひとりがちょうど必要とする量の素材を乗せた物資が流れてくる日を夢見ているが、その夢が実現した事は過去に一度も無い。
全ての物資から必要な素材を選り分けた彼らは、残ったゴミを一つにまとめ、手にした素材を世界中に送り届ける。

ここは離別の箱。

「おっと、また新しいのがきたみたいだな」
「そうだな。見えないからよく分からないけど」
今日も働き手は物資の終着点で立ち尽くす。
破壊され、流され、分解され、分別され、ただのゴミの山と成り果てた物資が一塊になって彼らの元へやってくる。
仕事場は全く光の届かない、深い深い漆黒の闇の中。

彼らの仕事は物資との離別。

「さ、早く前のを出しちまおう」
「そうだな。今日こそは」
ただ捨てるだけの彼らの仕事だが、一筋縄ではいかない労力を伴う。ゴミを捨てるためには固く閉ざされた門を開かなければならず、彼らはちょうど開くか開かないか程度の力しか持ち合わせていない。
救援も無い。身体を鍛える術も持たない。

「よし、今だ!」
「うわー!眩しい!」
運良く門が開いたとしても、彼らは油断する事が出来ない。門の外はまばゆい光の世界で、とても直接目に出来るような明るさではない。そんな失明しそうな恐怖の中、彼らは物資との離別を繰り返す。
もっとも、何も見えない漆黒の闇の中で暮らす彼らに視力は必要無いが、彼らはそれに気付かない。
力いっぱい、精一杯、いっぱいの物資のゴミの山との離別を終えた彼らは、再び固く門を閉ざし、外の光の世界ともしばしの離別を果たす。

ここは一つの偉大な箱。

広い広い宇宙空間において、この箱はたった一つの惑星にしか存在しない。
その数は数十億。一つとして同じ形の箱は無い。全てがたった一つの稀少な貴重品。
箱には命があって、中には五つの箱が入っている。

咀嚼という名の破壊と、嚥下という名の物流と、消化という名の分解と、吸収という名の分別と、排泄という名の離別を繰り返している。

そうして偉大な生を生きている。

終わり

あとがき

さて、いかがだったでしょうか。

途中から箱の中身が何なのか、気付いた方も多かったのでは?
3つの案のうち、何故これを最初に書いたのかと言うと、一番簡単だったからです。
他の2案も発想の方向性は近いですが、もうちょっと複雑な話になりそうで、きっと時間ももっと掛かります。いずれ書いてみるのも面白いかもしれませんね。

イラストとオブジェの写真があればもっと良かったんでしょうけど、残念ながら許可がないので掲載出来ません。

さて、この「箱」展ですが、参加を決めるまでは良かったものの、いざ開催されるまでの過程の中で、ずいぶんと紆余曲折がありました。
2人とも関西の方なので、私は直接の話し合いに参加する事が出来ず、メールで連絡しても返事が来ずに色々と事後報告になったり、次は話を進展させる前に連絡してくださいね、とお願いしても守ってもらえなかったり……子供を戦地へ送った親のように不安にさいなまれる日々でした(そんな経験はもちろんないですよ)。
そんなこんなで何とか開催までこぎつけ、私も予定を調整して何とか最終日に関西の会場へ顔を出せたものの、お客さんはほとんど皆無に近く……
そして箱展終了後、「今後もう二度と関わるのは辞めにしましょう」と絶縁宣告をされました。
凄く惨めな気持ちで帰りの新幹線に揺られたのを今でも鮮明に覚えてます。

やはり話し合い、というか相互理解って大事だなー、と思います。
こちらの言い分もあちらの言い分も、きっと理解し合えてなかったんでしょう。お互いの仕事への理解や配慮も足りなかったんだと思います。
私にとって文章は命より大切なものです。それがどう扱われるのかを知りたいのは当然です。
そしてあちらにとって作品は命で、あれこれ素人に口出しされたくない、と思うのもまた当然でしょう。

一人の人間としては失うものの方が多かったのかもしれませんが、今にして思うと作家としては成長したんじゃないかと思います。
自分の作品と更に真剣に向き合うきっかけになった気がします。
事あるごとに箱の中身は減ったり増えたりして、どんどん大きさも形も変わっていくんです。と、残りの2案の片鱗が見え隠れしてしまったでしょうか。

さて、今ではこの時の事はもう完全に吹っ切って、自分の糧にしてますのでご心配なく。じゃなきゃ当時の事をこんな落ち着いて振り返れません。
これがもし箱展直後だったら、とんでもない毒を撒き散らした文章になっていた事でしょう!危ない危ない。人間冷静に落ち着いてから行動するのはとても大切です。
もちろん怒り狂った私がどんな文章を書くのか、という事を知るのもとても重要ですが、それはそれでちゃんとこっそり文章として残してあるので、いつか振り返って読んでみたいと思います。

というわけで、あれ以降何かをする時は誰も頼らず一人でやる事にしている公認会話士でした。って、全く吹っ切れてないじゃん、というツッコミは受け付けません!

では、今後の作品もお楽しみに!

公認会話士

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