【無料恋愛小説】そして欠片は花弁のように⑥ミニー

      2015/09/23

ハイジがやってきた翌日。
この日も全く身体に、心に力が入らず、朝からベッドに伏せっていた。
作業は今日も休み、母が代わりにやってくれた。

いつもの待ち合わせ時間が近付くと、心がザワザワと、不快な速度の鼓動に変わる。
行きたいけれど、行って何をすれば良いのかが分からない。
もし彼が来なかったらどうするのか。
その時の失望や絶望や喪失に私は耐えられるのか。
もし彼が来たらどうするのか。
素直になれるのか。
また喧嘩しない保障はどこにあるのか。

あれこれ考えていたら、階段を上がってくる足音が聞こえた。
彼との待ち合わせ時間も過ぎ、またハイジが様子を見に来たのかもしれない。
ドアを2回ノックした後、ドアの向こうから現れたのは、彼だった。

ミッキー
起きてたのか
ミニー
……………………

驚いて、何も言えなかった。
ミッキー
ハイジに聞いたんだ。ごめん、ホントに体調が悪かったなんて思わなくて……いてもたってもいられなくなって……今の具合はどうだ?
ミニー
最悪ね

こんなに嬉しいなんて。
彼を一目見ただけで心が躍り、彼以外に何も持たない自分を思い知らされる。
それが情けない。
最悪だ。
ミッキー
そ、そうか。毎日待ってたんだけど来なかったからさ。怒ってるのかと思ったよ
ミニー
ええ、そうね。これ以上ないくらい怒っているわ

愛しい気持ちも、申し訳ない気持ちも、何も口に出せない。
こんな状況でも全く素直になれない。
私が素直ではないからこんな状況になってしまっているのに。
私は自分自身に何より腹を立てていた。
ミッキー
…………やっぱりそうか。ごめん!
ミニー
…………何よ、突然。何に対して謝っているのかしら

何故彼が謝る必要があるのか。
彼を怒らせたのは私なのに。
謝らなければいけないのは私なのに。
ミッキー
てっきり体調が悪いフリをして僕をからかったのかと思って、そういうのは冗談では済まない問題だと思って、でも怒鳴ったりするべきじゃなかった。もっと冷静にお前の話を聞くべきだったんだ。だからごめん。あんな風に一方的に怒ったりして。ホントに体調が悪い事も気付けなくて
ミニー
………………

何を言えば良いのか分からなかった。
彼が私を嫌いになったわけではない事が分かったから。
恐らく……口も利けないほど、嬉しかったから。
ミッキー
とにかく、また明日からも待ってるから。来れないようならまた見舞いにも来る。そ、それは構わないんだよな……?
ミニー
………………

言うまでもない。
当たり前だ。
どう返事をしようか思案していると、
ミッキー
まだ僕となんか話したくないよな。突然寝てるところを邪魔して悪かった!また明日な

彼は慌てて部屋を後にしてしまった。
沈黙の意味を少し勘違いしてしまったらしい。

でも何だか分からないうちに事態は好転していて、羽が折れた鳥のように重かった心が、風もないのにふわふわと舞い上がる羽毛のように軽くなった。
ずっと私を待っていたのなら、明日も彼が待っていてくれるのなら、明日は待ち合わせ場所へ行こう。
そして彼に謝ろう。
素直になれなくても良い。
上手に会話の中に紛れさせて謝れば良い。
私にはそれがきっと出来る。

そして次の日。
朝から久し振りの作業のために庭へ出ると、中々壮観な眺めが広がっていた。
絶対に完璧にとはいかないけれど、それは私のせいでも母のせいでもなくて、地球のせい。
だからそれは仕方が無い。
要するに順調、という事だ。

作業を終えて待ち合わせ場所へ向かった。
今日も暑い。
一応病み上がりの私は、注意して日陰を歩きながら待ち合わせ場所のベンチに到着した。

待ち合わせ時間を過ぎても、彼はやってこなかった。

どうして来ないのだろうか。
まさか昨日の私の態度に、今度こそ腹を立ててしまったのだろうか。
彼が今までに一度も遅刻した事が無いだけに、軽やかだった心がざわつく。

ハイジ
ハロー!昨日までミッキーがいたのに、今日はミニーに入れ替わっているんだよ!ひょっとしてこのベンチに交互に座るのが二人の楽しみなのかも?もしそうだったら昨日は思い切り妨害してしまったかも。そうなのかも?違うかも
ミニー
あら、こんな所で何をしているのかしら?と、わざとらしく訊いてあげても良いけれど、何の用かしら。あなたが偶然ではなくここにいる事くらい私にはお見通しなのよ
ハイジ
ゲッ、ギクッ、ピカッ、チョロッ、ギュギュッ、ハッ、ギョッ、チュチュチュッ
ミニー
図星だったみたいね。それにしても一体どうしたのかしら?悪いけれど今日はちょっと時間が無いのよ。そろそろ彼が来る時間だもの
ハイジ
んー?だったらそのミッキーがどうしていないのかがとっても気になる次第かも。早く来ないとまたミニーが寂しさで倒れてしまうかもしれないんだよ!私は悲しい表情を見せまいとして部屋を暗く暗くしているミニーを確かにこの目で見たのかも
ミニー
ちょっと、妙な事を言うのは辞めてちょうだい。私は表情なんて隠してないわよ。私はただ勝手に流れてきてしまう涙を……って、何を言わせるのかしら、みっともない。つい後々掘り返されたら困るような冗談を言ってしまいそうになったじゃないの。早く用件を言ってちょうだい。言わないと老いていくわよ
ハイジ
ぎゃー!気になるからこっちから出向こうって言う前にお婆さんにされてしまったんだよ!そうさなぁ、ミニーさんや。あたしゃ彼が来ないのは理由があるんじゃないかと思ってねぇ。そう思わんかね。違うかね
ミニー
違うわよ。行かないと置いていくわよ、って言ったの。私は今から彼の家に行くわ
ハイジ
むむむっ、事態は急展開なんだよ!ぴゅぴゅぴゅっ!

彼は来ると言っておいて来ないような人ではない。
そう、ここ数日は調子を落としていたけれど、本来私は彼の事は何だってお見通し。
色々あったせいで、すっかり自信を失ってしまっている。
ハイジに言われるまで異変に気付かないなんて、完全にどうかしている。

嫌な予感がしつつ彼の家に到着し、庭を覗いた。

芝生の上で、彼がうずくまるように倒れているのが見えた。

続く

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