【無料小説】 そして欠片は花弁のように 恋愛小説

【無料恋愛小説】そして欠片は花弁のように①プロローグ~ミッキー

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プロローグ

欠片が散らばっている。

友情の欠片とか。
愛情の欠片とか。
幸福の欠片とか。
不幸の欠片もあるだろう。
憎悪とかも。

そんなジグソーパズルのピースのような欠片をたくさん集めて完成するのは、人生という名の絵。
その絵は自分の意志を込めて完成させる。

今の私はどんな絵なのか。

最終的にどんな絵を描いていたいのか。

私には描きたい絵がある。

そのために、私は日夜、会話という名の欠片集めを繰り返している。

ミッキー

ミッキー
痛ててててて
ミニー
うるさいわね。毎度毎度気持ちの悪い耳障りな声を発するのは辞めてちょうだい。同じ行動や同じ音を繰り返すという行為はあまり知的には見えないわよ。私がこんな事を【るるるるる】とか言いながらやっていたらまるで馬鹿みたいでしょう?
ミッキー
そんな事言われても……痛ててててて、ちょ、ちょっと、爪が伸びてないか?
ミニー
うるさいわね。嫌なら離してもらって構わないわよ。ひょっとしたらこの状態に少しずつ慣れて、より力の伝達が上手になったのかもしれないわ。とはいえ私は全く痛くないから違いがよく分からないけれど

夏休みになり、白い雲一つない、とも言い切れないとある夏の日。
僕とミニーはいつものように会話をしながら時を過ごしている。

何も真新しい事が起こらない状態を日常と呼ぶならば、僕が過ごすのは非日常。
でも非日常が続くなら、それはそれで日常と呼ぶのだろうか?

今まで特に人と変わった人生を生きてきたつもりはないけど、高校に入学して以降、何もかも変わってしまった。
価値観とか、考え方とか、人生観とか。

……女性の好みとか。

理由は簡単だ。

ミニー
それにしてもどうして人はこんな息苦しい事を好き好んでするのかしらね。脳が不快だと感じるよりも前に、反射的に指が拒絶してしまっているわ。いつか私の親指の爪が血で赤く染まってしまったらどうしてくれるつもりなのかしら
ミッキー
そういうのって、血を出す側の僕が普通は抗議するんじゃないかと思うけど……
ミニー
うるさいわね。嫌なら離しても構わないわよ、と言ってるじゃないの。今はどうしてわざわざこんな状態にならなければならないのかを検証しているのよ。私は不快であなたは痛いわ。よく世界中の人達がこんな事を平然とやっているわね。もしかしたら相手を嫌いになるためにやっているのかしら
ミッキー
いやまぁ、そりゃ他の人達は痛い想いをしてないからな。単に好きな相手に触れていたいから、ってのが自然に湧き上がる感情なんじゃないかと……
ミニー
あらそう。じゃぁ私はあなたの事が好きでも何でもないという事になってしまうのかしら。毎回不快で不快で離したくてたまらないものね
ミッキー
……そう言って一度も離した事なんて無いクセに……いや、何でもない。まぁとにかくそのうち爪を立てるのを辞めてくれると願ってるよ

僕の全てを一色に染め上げてしまった女性がいる。
それはもちろん僕の彼女、ミニーだ。
価値観も、考え方も、人生観も。
……女性の好みも。
それら全てが彼女の色、ミニー色になってしまった。

ミニーはいつも僕を日常から非日常の世界へと引っ張って行く。
今のこの状況のように。

ちなみに今は、恐らく普通の恋人達なら全く気にも留めないはずの【手を繋ぐ】という行為でこれだけの大騒ぎになってしまっている。
何故かミニーは僕の親指の付け根に思い切り親指の爪を突き立てるようにして手を繋ぐ。

照れ隠しなのかどうかは分からない。
訊いてもどうせ答えてくれないような気がするし、それ以降手を繋いでくれなくなるような気もするので、あまりにも痛い時に主張する程度に留めている。

毎回、しっかりと爪痕が残る。
とはいえ、繋いだ手の柔らかさと温かさの記憶の方が強く残るから不思議だ。

手は会う時に毎回繋いでくれるわけではなくて、拒絶される時もある。
二人が恋人だと意識するような状況下において、ミニーはほとんど本心を見せてはくれない。
ミニーは喜怒哀楽を隠す天才で、常に同じような精神状態に見える。
どれだけ風が吹いても、周囲が騒いでも、波一つ立てない凍った湖のようだ。
その氷の下に水が流れているのか、それとも全て凍っているのか、僕には分からない。

ミッキー
痛ててててて!
ミニー
何かしら、人の顔を横目で見たりして。あなたと出会って以降標準装備された視線感知センサーが完全に警報を鳴らしていたわよ。今後私の横顔を3秒以上続けて見ないでちょうだい
ミッキー
恋人の顔を見るのがどうしていけないんだ!って、ずっと前を見てるように見えたけど、よく僕の視線に気付いたな
ミニー
あなたの事は何でもお見通しよ。ただでさえ分かりやすい性格だもの。もっと奇抜な行動をするように心掛けた方が良いわよ
ミッキー
でも僕はお前やハイジのようにはどう頑張ってもなれないと思うぞ
ミニー
まぁ、あなたは私達が奇抜な行動をする、既存の概念から逸脱した存在だと思っているのね。でも残念だったわね。ずっと騙していたのよ
ミッキー
いや、少なくとも全部演技で出来るようなレベルじゃないと思うけど……
ミニー
違うわよ。ずっと黙っていたわよ、って言ったの。あなたは黙っている時に大抵私の事をじっと見ているわ。何でもお見通しよ
ミッキー
な、なるほど。流石に鋭いな

そんな僕達もそろそろ付き合って一年になる。

いつもいつも何でも見通されてしまっている僕だけど、少しは変わった事をしてあげたいと思っている。
意外と面白い事を思いつく人間も、一人知っている。

ミッキー
なぁ、恋人の記念日って何をもらったら嬉しいと思う?
ハイジ
んー?恋人が今までに全くいなかった私にそんな事を訊くとはどういう了見か謎なんだよ!これはまさか私と記念日を作ろうとする魂胆なのかも?そんな事をしたらミニーが猟犬のようになって、両家入り乱れての死闘が展開されてしまうんだよ。完全にとばっちりかも。そうなのかも?違うかも
ミッキー
いや、その心配はしなくて大丈夫だぞ。お前の事は友達として大好きだけど、僕はミニー以外の人は全く恋愛の対象として考えられないからな
ハイジ
むむむっ?何故か何もせずに歩いていただけで突然シリアスに振られるという超常現象に巻き込まれてしまっているんだよ。全く失礼な色恋沙汰という意味で失恋という言葉が当てはまるのかも。ここはあえて悲しい風情を醸し出しておいた方が物語的な展開があるかもしれないんだよ。ぐすん
ミッキー
おい、ちょっと、泣かないでくれ。何か誤解したなら悪かった。ただお前に恋人がいたとして、何か記念日があったらどういうプレゼントが欲しいかなー、と思ってさ
ハイジ
んー?そんなの決まってるんだよ。次の記念日をちょうだい、と言うのかも。そうすれば何度も何度も記念日がやってきて、毎回次の記念日をもらうんだよ!でも結局は記念日がもらえただけで、他には何ももらえずじまいかも?そうなのかも。違うかも。でも結局は何もいらないんだよ
ミッキー
何もいらない?でもそれじゃ普段の日と同じじゃないか
ハイジ
その普段と変わらない一日を変わらずもらえる幸せが……むっ、つい真面目に答えてしまっているんだよ!要するに話をまとめると、裸の自分をプレゼントする、といった暴挙に出ても大丈夫、という結論に至った次第かも。もし怒られても【でも記念日だからつい張り切っちゃって……】の一言で笑って許されるかもしれないんだよ。とっても綺麗に話がまとまったのかも。そうなのかも?そうに違いないのかも
ミッキー
全然最初に言ってたのと違うじゃないか!それにミニーが笑って許すなんて行動に出るわけがないだろ。裸だって今までも散々未然に対処されて……って言うとまるで僕が裸になろうとしてたみたいに聞こえるな……
ハイジ
というわけで身体中が真っ赤になるような恥ずかしいプレゼントをしても許されるのかも!ぴゅぴゅぴゅっ!
ミッキー
おい!ちょっと!結局どれがお前の意見なんだ!

面白くて意外と頼りになる時があるハイジも、結局は何が言いたいのかよく分からなかった。
恥ずかしいプレゼントって言われてもな……

何かミニーが喜ぶような物が思いつくと良いんだけど……

家に帰り、特に期待もせず、とりあえず母にも質問をしてみた。
【彼女へのプレゼント】と言うのはちょっと恥ずかしいので、ミニーの事は隠して。

「何かさぁ、普段世話になっている人への気の利いたプレゼントとかってどういうのがあるかなぁ」

「あらあら。そうねぇ。ミニーちゃんが好きそうな物……」

「ええっ!?何でミニーなんだ?普段世話になってる人って言ったじゃないか」

「だってあんたが一番世話になってるのってどう考えてもミニーちゃんじゃないの」

「うっ、それはまぁ否定出来ないけど……察するの早過ぎだぞ……名前を隠したりして、かえって恥ずかしい展開じゃないか……」

「こういうのはどう?…………その代わりこの夏は…………お願いね」

何だかトントン拍子に話がまとまってしまった。
上手い事言いくるめられたような気もする。
でも、確かに悪くないアイディアかもしれない。
もちろん詳細はその時まで隠さなければ興醒めとなってしまう。
すぐに僕の事を見通すミニーだけど、今回は内容が内容だけに、悟られる事なく出来るかもしれない。

続く

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