【無料小説】 だから俺はクリスマスが嫌いなんだ 恋愛小説

だから俺はクリスマスが嫌いなんだ:12月23日その4

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食事を終え、食器を洗い、今日もユニットバスを温めるために湯を張る事にした。
最初に5人前茹でておいたパスタだが、結局ほとんどアンナの胃袋の中に収まってしまった。
何だかんだで同じフォークを使う事になったものの、指を食べられるような事にはならなかった。
アンナの猫舌を考慮して候補から外したが、手で食べるピザの方が良かったか?などと思ってしまった事は俺だけの秘密である。

さて、アンナといると次々問題は発生する。
入浴に関してもそれは例外ではない。

「さ、今日はどうする?先に入るか?」

「一緒に入る」

やはりそうきた。
俺だけは特別と言っても、流石に一緒に風呂は問題があり過ぎる。

「あのな。昨日一人で入ったじゃないか」

「でも間違ったんでしょ?」

「間違いというか、ちゃんと泡を流して、身体を拭いて出てくれば何も問題ない」

「じゃぁ流して拭いて」

だからそれじゃ裸が……。

ピー。

自動給湯を終えた機械音が鳴ってしまった。
アンナはここぞとばかりに、今日も綱引きの達人のように全体重を掛けて俺を引っ張り始めた。

「全く……はっきり言って、二人同時に入る事を想定して作られてる広さじゃないんだぞ。もし引っ繰り返って頭を打ったりしたら……」

あ、しまった。

「死ぬの?」

アンナは腕を引っ張るのをやめ、俺の頬を両手で挟んだ。
瞬時に泣きそうな顔になっている。
余計な事をつい口走ってしまった後悔の念に押し潰されそうになる。

「いや、立ち上がったりしなければ別に……」

「死なない?」

「死なない!」

まさか2日連続で……以下略。

アンナはさっさと服を脱ぎ捨ててユニットバスへと行ってしまった。
結局は一緒に風呂に入らず、部屋で待つという選択肢もある。
アンナがまた濡れネズミ状態で出てきても、床を拭けば済むわけだし。
でもそういう事にはきっとならないだろう。
アンナは意外としつこいというか、我がままをしっかり押し通す性格なのは疑いようがない事実である。
部屋で待っていたら、恐らく濡れネズミ状態のアンナが出てきて俺をユニットバスへ引っ張っていこうとするだろう。
そうなると、一緒に入浴も、床掃除も、どちらもやらなければならず、完全に二度手間である。
……流石に一緒に入浴する事と床掃除とを比べて天秤にかけたらアンナに失礼だが、でもそれくらい何でもない事なんだ、と言い聞かせないと心臓のドキドキが収まりそうにない。
頭を打たなくても、心臓発作は起こってしまうかもしれないのだ。
しかも状況は冬場の入浴、大変危険である。

「まどっちー!?まだー!?」

ユニットバスから最後通告が聞こえてきた。
もうなるようになれ、やぶれかぶれ、夢の国、八方塞、桃源郷、四面楚歌だ。
ちょいちょい本音が出ていたかどうかは定かではない!

ドアを開けると、一気に湯気が襲い掛かってきた。
アンナはやはりカーテンなどはしておらず、湯船の中で座っている。

「早く入ろ。温かいよ」

「ひゅん」

つい【うん】の声が裏返ってしまった。
恥ずかしがっていてもしょうがない。
一気に服を脱ぎ、おかしな体調にならないように気を付けながらゆっくりと湯船に入り、アンナが座る隣に並んで体育座りのように座った。

「こんな風に誰かと一緒に入るのなんて初めてだよ」

「私もー!」

アンナが声を出しただけで湯がゆらゆらと揺れて、ちょうど水面の高さの辺りにある皮膚を空気との温度差で刺激する。
赤ちゃんの頃は知らないが、気付いたら俺は一人で風呂に入っていたし、経済的な事情で修学旅行などにも一度も参加した事が無い。
本当に初めての体験だ。

「まずは何するの?」

「さ、さぁ。身体が充分に温まったら全身を洗えば良いんじゃないか?」

「温まった?」

「いや、まだ入ったばかりだからな。アンナは?」

「分かんない。温まったかどうか、どうやったら分かるの?」

「そりゃ身体が温かくなれば温まったって事になるんじゃないか?」

「じゃぁ確かめて……わっ」

「ぬわぁっ!?」

俺に抱き付こうとしたのか、アンナが突然俺の方に向きを変えて立ち上がろうとした瞬間、バランスを崩して覆いかぶさってきた!
慌てて両手を広げて受け止めようとした俺と思い切り抱き合いながら、二人してお湯の中に潜った。
完全に上に乗られてしまっているのと、突然の事によるパニックで、上手く起き上がる事が出来ない。

くくく、苦しい!
あ、アンナは?

水中で目を開けると、アンナが俺の胸に手を付いて上半身を起こしたのが見えた。
良かった。
ひとまずアンナさえ助かれば……っていうか、手をどけてくれないと身体を起こせない……。

早く手をどけて…………。

続く

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